高等学校「情報科」事例セミナー ~情報技術を活用した問題の発見・解決~ セミナーレポート Vol.2 事例発表

基調講演で鹿野先生がおっしゃられたように、「情報デザイン」とは単なるコンテンツ作成技術のことではなく、「情報を分かりやすく相手に伝える力」のこと。まさにそれを実践されたのが足立学園中学校・高等学校(東京都)の杉山直輝先生です。Adobeのデザインツール「Adobe XD」を用いた授業の実践事例をご発表いただきました。

また、「プログラミングを通じた問題解決」も情報科改革の大きな骨子ですが、それにチャレンジしたのは岩田中学校・高等学校(大分県)の八木真也先生。失敗談を交えながら、「プログラミング授業に課題設定を取り入れるとどうなるか」を赤裸々に語っていただきました。

「情報の授業」とは、PCスキルを学ぶための場ではない

新学習指導要領下の情報の授業で、プログラミングと並んで特に目立つようになった、「情報デザイン」「PBL(問題解決)」というキーワード。杉山直輝先生(足立学園中学校・高等学校)は、情報の授業に先立ち生徒に必ずこう伝えるそう。「この授業の目的は、PCの使い方を覚えることではないよ。ITスキルを用いて、自己表現できるようになることだよ」。まさに「情報デザイン」「問題解決」であり、この日の発表テーマ。タイトルは「どうする? 情報デザイン ~Adobe XDでの取り組み~」です。

杉山先生が選んだ「Adobe XD(以下XD)」は、主にWebサイトやアプリのUI/UXを作成するためのデザインツール。「6時間の授業案が最初から設定されているのが魅力で、共同編集もやりやすい。PBLでのチーム作業、プロトタイプ作成、ディスカッションとの親和性は特によく考えられていると感じました」と選定理由を語ります。

足立学園中学校・高等学校 杉山直輝教諭

「XDは最初から授業案が設定されている点が魅力」(杉山先生)

One NoteやTeamsを併用し、リモートワークに挑戦

では、実際にその6時間でどんな授業を行ったのでしょうか。まず1時間目は、基礎のレクチャー。情報デザイン能力を伸ばすのが目的であること、そのためにPBLを行うことなどを丁寧に解説しました。

2時間目は、目標とテーマを発表します。目標は「プロトタイプのアプリ作成」、テーマは「地域に特化した防災アプリ」です。「実際に使われている防災アプリを試してみて、良い点・悪い点をOne Noteにメモさせ、じゃあ自分ならどう作る? という話をしました」。つまり、ここから協働的な学びや問題解決学習が始まるのです。3時間目は、メモを共有しつつ各班で改善点をミーティング。それをふまえて、アプリを作る作業に入っていきます。

4時間目は各自が作ったページを統合しますが、ここで杉山先生はユニークなチャレンジを行いました。「リモートワークを試してみました。授業時間内で終わらない部分を宿題にし、Teamsでコミュニケーションを取りながら、各自の自宅から共同編集する形です」。保護者が在宅業務をしている横で、生徒たちもリモートワークに取り組んだという家庭もあったそうで、良い社会勉強にもなったようです。

Adobe XDで防災アプリの開発にチャレンジ

Adobe XDの操作の様子

実社会を強く意識し、問題解決能力を伸ばす

5時間目は完成したアプリの披露、6時間目はプレゼンです。ただ杉山先生は、「ここで大事なのは、自分たちの作ったものがどう評価されるかです」と力説。生徒たちの相互フィードバックでは、辛辣な意見にムッとする生徒もいましたが「これが実社会だ」と教えます。

プレゼンもコンペ形式とし、投票で1位を取ることが目標。結果は成績評価にも反映されますから、レクリエーション気分ではいられません。「現実のコンペなら、選ばれるアプリは一つだけ。ここで1位が取れない(=コンペに負けた)ということは、売上も作れないし今までの苦労も水の泡。そういうリアルを学んで欲しいのです」と真意を語ります。まさしく情報教育改革のキモである「実社会での問題解決能力」を強く意識した実践となりました。

この経験を活かし、「今後は地元(足立区)と連携していきたい」と言う杉山先生。足立区の防災アプリへの提案など、より実社会に即した取り組みを模索中です。さらには「Monaca Educationと連動して、アプリのプログラミングまで持っていけるとベスト」だと展望を語ります。

プレゼンの様子。実社会に則して厳しく評価する

失敗談はたくさんあるが、そこから学んでもらえたら

「初めて課題設定を取り入れたプログラミングの授業 ~高校生が中学生向けにアプリを開発~」と題して発表に臨んだ八木先生。同校では一人1台のiPad環境が整備されているものの、中1時はカメラやブラウザなど多くの機能に利用制限をかけるルールで運用されていました。「生徒からは『5万円のノート』と揶揄されています」と苦笑する八木先生ですが、「なら、来年度の中1が入学時に使えるアプリを作ってあげよう!」という“問題解決”をテーマにしたプロジェクトだったのです。

ただ、「高度なことをしたわけではない」と八木先生。「本格的なプログラミングは未経験の学校で、『プログラミングによる問題解決』をやってみたらこうなった、という事例だと思ってください。失敗談がたくさん出てきますので、これから取り組まれるみなさんにとって疑似体験になれば」と笑います。

自分が新入生だったら、あると嬉しいアプリを作ろう

「生徒たちは、ScratchとWeb制作の経験が少しだけあったので、CSSとHTMLはそれなりに理解しているだろうという前提でした」と言う八木先生。しかしこの「前提」が、後から大きな反省材料を引き起こすことに。

利用したのはMonaca Education、目標は「自分が中1の新入生だったら、あると嬉しいアプリ」の制作。20時間の授業のうち、Monaca公式テキストを使って前半の10時間は基礎を学び、後半の10時間でアプリの企画と実制作という計画です。時間の制約がある中で、CSSとHTMLと演算子は既習として省略、実制作もあんこエデュケーションにアップされているサンプルアプリを改良することで対応しました。

生徒たちは、限られた時間でも工夫を凝らしてアプリを形にしていきます。中でも「特に面白かった」と紹介してくれた作品が「学校の先生ガチャアプリ」。ガチャを回すと、ランダムで各先生のプロフィール紹介が出てくる仕掛けです。これなら新入生も、楽しみながら先生のことを覚えられるでしょう。

生徒が中学時にScratchで作った格闘ゲーム

授業計画の流れ

生徒が作成した「先生紹介ガチャ」のアプリ

同じCSS・HTMLだということが理解できない

ここだけ聞くとうまくいったように思えますが、八木先生は「本当に失敗続きでした」と明かします。中でも大きかったのは、先述したCSSとHTMLに対する基礎理解。例えばScratchのようなブロックプログラミングでも、Monacaのようなテキストプログラミングでも、インターフェースがCSSとHTMLでできていることは同じ原理です。しかし、多くの生徒はこれが同じものだと理解できず、別物だと捉えて躓いてしまったのです。

「この繋がりを事前にしっかり教えておくべきでした」と反省しきりの八木先生。しかし、イレギュラーはそれだけにとどまらず、「Monacaテキストの難易度についてこられない生徒も見受けられました。また、そもそも実生活における『問題解決』の経験に乏しい生徒たちに、いきなり『プログラミングで問題解決を!』と言っても、難しかったようです」と振り返ります。つまり、目指す理想の授業実践と生徒たちの現状の乖離が激しいという、現実問題にもぶつかったのです。

「苦手な子」がぶつかる壁をいかにクリアしていくか

この試行錯誤の連続について、八木先生はこう感想を述べます。「理想的な授業案はたくさんありますが、現実として、ソースコードを見ただけで拒否反応を示す子や、問題解決をしようにもトライアル&エラーが苦手な子もいるわけです。まずここをクリアするのが課題かなと。協働学習で助け合う環境ができれば良かったのですが、今年はコロナもあって個人ワークが中心になってしまったのが残念です。また『プログラミングで問題解決』と言うには少し物足りない内容でしたので、今後はこのあたりを改善していきたいですね」。

失敗からの学びを踏まえた、今年度の目標

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