高等学校「情報科」事例セミナー ~情報技術を活用した問題の発見・解決~ セミナーレポート Vol.1

2022年度からの新学習指導要領実施(高校)によって、大きく改変される情報科。従来の「社会と情報」「情報の科学」が「情報Ⅰ」へと再編成され、プログラミングが必修化されます。また、発展的な選択科目として「情報Ⅱ」も設置され、「情報」が大学入学共通テストに入試科目として導入されることもほぼ決定しました 。

ハイレベル化と一般化が同時進行する「情報」ですが、その改革の目的の根本は単にICTスキルを習得することではなく、「情報技術を用いた問題発見・解決能力」を育てることです。今回のセミナーでは、先駆者としてこれらの授業実践に取り組んでこられた先生方をお招きし、その実践事例をうかがいます。

研修や機材だけでなく、環境整備にも留意して今年度中に準備を

基調講演は、京都精華大学教授・大阪芸術大学客員教授の鹿野利春先生。2021年3月まで文科省の調査官として情報科を担当、まさに情報科改革の中枢におられた、専門家中の専門家です。「新しい情報科を教えるために」と題し、必要な準備や考え方などを解説してくださいました。

「情報Ⅰ」は来年(2022年)度から始まるわけですから、当然その準備は今年度から始めておかねばなりません。しかし、そもそもどんな準備が必要なのでしょうか。鹿野先生は「準備とは教材であり研修であり、環境整備もこれに含まれます。文科省から実践事例集が出ていますので、具体的なものはそれを参照してください」とアドバイスします。

また、ここで言う「環境整備」とは、インフラや機材の準備のこと。「例えばMonaca EducationのようにWeb上で稼働するサービスを使うのであれば、生徒が一斉にそれを行う負荷に学校の回線が耐えられるのか。端末にインストールして使うものなら、インストール権限はあるのか、事前申請はしなくていいのか。ロボットやAIスピーカーを活用するなら、動作確認も必要です。このあたりは、今年の夏ごろまでには試しておく必要があると思います。また、必要な物品を購入しるための予算の準備も必要です。」と鹿野先生。確かについ盲点になりがちなケースです。直前にあわてないためにも気を付けたいポイントでしょう。

京都精華大学教授・大阪芸術大学客員教授 鹿野利春先生

個別の要素を考える前に、情報Ⅰの全体的な構造を知っておこう

準備や研修に臨んでいくにあたっては、そうした個別事案への対策も必要ですが、鹿野先生は「大事なのは、新しい情報科(情報Ⅰ)の全体的な構造を知ることです」と強調します。

その構造とは、情報技術を通じた「問題の発見・解決能力を養う」という目標が前提にあり、手段として「情報デザイン」「プログラミング」「データの活用」といったツールが存在すること。これらを個別に考えるのではなく、「目的と手段」という一連の流れで有機的に意識することが欠かせないそうです。

「例えば『情報デザインとは何か』を教えようとするのは、『平泳ぎとは何か』を教えるようなもの。実際に生徒たちにやらせる中で身に付けていくことが大事です」と鹿野先生。一つひとつの学びが関連性を持って繋がっていることを意識し、困ったら「何のためにそれをやるのか」という原点に還ることを忘れずにいたいところです。

有機的に繋がるという意味では、他教科と連携した指導も欠かせません。「情報Ⅰは2単位しかありませんので数学Ⅰと、情報Ⅱは数学Bと連携してデータの活用などを学ぶのが合理的です。みなさんは情報科の先生でいらっしゃるでしょうが、情報科と連携する部分の数学の教科書も読んでおくようにしたほうがいいと思います」。

情報Ⅰの構造イメージ

「~の理解」から「~できる力」へ

これらをふまえつつ、続けて文科省の「情報Ⅰ教員研修用教材」をベースに、指導時のポイントなどを解説。同教材は、先述した情報Ⅰの「構造」に沿って四つの章で構成されています。「第1章 情報社会の問題解決」という目標と、「第2章 コミュニケーションと情報デザイン」「第3章 コンピュータとプログラミング」「第4章 情報通信ネットワークとデータの活用」などの各ツールです。

まず第1章から見てみます。鹿野先生は、ここに記載された各学習目標において、従来の「~の理解」という文言が「~する力」という強い表現に変わっている点に留意すべきだと指摘。「問題の定義であるとか、いかに問題を発見するかとか、『問題』に関する基本理解を丁寧にやっておく必要があるでしょう」と、ここでも「何のためにそれをやるのか」という原理原則から離れないように促します。

「 情報社会の問題解決」における、従前と情報Ⅰとの比較

表現と機能と論理をワンセットで伸ばすのが「情報デザイン」

続いて第2章(コミュニケーションと情報デザイン)ですが、「今まで『情報デザイン』と言えば、ポスターやWebサイトにおける表現や伝達方法の工夫が主となっていました」と指摘します。つまり、コンテンツを作る技術にスポットが当たっていたということです。

しかし情報Ⅰでは、もっと俯瞰的に捉える必要があるそう。「『情報を分かりやすく相手に伝える力』が情報デザインであると考えてください。情報の『表現』だけでなく『機能』と『論理』、つまり抽象化や可視化、構造化ができる思考力の習得が目的。そう考えるとインターフェースやアルゴリズムも情報デザインに含まれます。デジタルプロトタイピングができるAdobe XDなどのソフトやペーパープロトタイピングなどでデザイン技術を学び、それをプログラミングで動かすといった連携などは、非常に効果的な授業の組み方です」。

「 情報デザイン」分野における、従前と情報Ⅰとの比較

「情報Ⅰ」とは、すなわち国民的素養である

3章(コンピュータとプログラミング)に絡んで非常に多いのが「どの言語を使えばいいんですか?」という質問だそう。しかし鹿野先生は、こう注意喚起します。「皆さんが紙を切るとき、ハサミを使うと思います。木を切るならノコギリです。逆はないですよね。つまり対象に応じてツールを選ぶことが大切なのであって、より良いものが出ればそれを使っていくという発想が必要です」。どの言語を学ぶのが有利であるとか、そんな問題ではないということなのでしょう。

「重要なのは『プログラミング』という概念が理解でき、効率的に使えるようになること。まず、プログラミングとして身につけさせたい資質・能力があり、そのために何をするか。それが『情報Ⅰ』の考え方だということです」と重ねて原理原則を説きました。

実際の授業においても「対象に応じてツールを選ぶ」発想で、「それぞれの学校のカリキュラムに合わせるといいでしょう。仮に物理基礎を1年生で全員が履修するような学校であれば、(情報Ⅰにおいては)物理シミュレーションを学ぶ、そのような発想で授業を設計してください」と促します。

「プログラミング」分野における、従前と情報Ⅰとの比較

最後に4章(情報通信ネットワークとデータの活用)。「例えば家庭でインターネットの接続環境を作ろうというとき、暗号やセキュリティの仕組みを理解して対応できるようにするのが『情報通信ネットワーク』に関する学びです。『データの活用』は数学で学んだことを活かす発想ですが、情報の授業ではより実社会や実践において必要なことを学びます。調査しようとする因子以外で結果に影響を与える交絡因子や二変量の間の関係性を一次方程式の形で表す単回帰分析、何らかの理由で記録されなかった欠損値などがそうです」。

情報Ⅱについても、「まずは情報Ⅰをしっかり学んでいることを前提に、ここへ『システム』や『データサイエンス』というキーワードが乗っかってくるイメージ」だと言い、これらをまとめて「つまり『情報Ⅰ』とは、国民的素養であるという位置づけなんです」と非常に印象的な表現で総括しました。

「ネットワーク」分野における、従前と情報Ⅰとの比較

「データ」分野における、従前と情報Ⅰとの比較

学びの設計と環境の用意こそ、先生のミッション

準備も研修も多岐にわたる、新しい情報科。「これからが大変だ」と思われる人も多いでしょう。しかし鹿野先生は、その気持ちは分かるとした上でこうエールを送り、講演を締めくくりました。

「今後の情報科においては、技術的にみなさんより『できる』生徒たちがたくさん現れるでしょう。ただ、それでいいんです。先生方の役目はそうした生徒たちの状況を見極め、興味・関心をしっかりコントロールしていくこと。プログラミング技術などのテクニカルなことは、生徒たちと一緒に学んでいけばいいんです。先生が最初にすべてを理解しておく必要はないと思います。目標からずれず、学びの設計と、そのための環境を用意すること。それこそがこれから皆さんが行うべき『準備』です。私もそれをお手伝いしていきたいと思います」。

高等学校「情報科」事例セミナー ~情報技術を活用した問題の発見・解決~ セミナーレポート Vol.2 事例発表

高等学校「情報科」事例セミナー ~情報技術を活用した問題の発見・解決~ セミナーレポート Vol.3 座談会