高等学校「情報科」事例セミナー ~情報技術を活用した問題の発見・解決~ セミナーレポート Vol.3 座談会

最後は、鹿野先生、杉山先生、八木先生による座談会。聴講者のみなさんから事前に寄せられたテーマや、この場で出た質問を交えながら、各先生の見解をお聞きしました。

モデレーターはアシアル株式会社取締役・塚田亮一が務めます。

「情報Ⅰ」、教科書はどう選ぶ?

塚田:まずは事前調査で最も多かったこの質問から。「どんな観点で情報Ⅰの教科書を選定しますか」。先生方、いかがでしょう?

杉山:いざ教科書を選んでも、実際には1年も経てばどんどん新しい情報がアップデートされる時代です。ですから、極端に言えばどの教科書でもいいのかなと考えています。強いて言えば、生徒が主体的に学ぶきっかけになるような、コラムなどが充実しているといいですね。

鹿野:学校としてどんな子どもを育てたいのか、 入学してくる子どもたちがどんな状態なのかを、しっかり見据えて選ぶことが大事でしょう。例えば、非常に良くできた教科書であっても、それが子どもたちに最適であるとは限りません。学校として目指す方向性を統一するためにも、他教科の先生方と意見交換してみるといいかもしれませんね。

八木:正直なところ、共通テストにおける情報の内容がどうなるか分からない中で「教科書を決めろと言われても……」というのが本音です。しかしそうも言っていられません。現状では、大学入試を意識するなら、1番難しくて内容が深い教科書を選んでおくべきかと思います。

足立学園中学校・高等学校 杉山直輝教諭

「問題発見・解決」をやりたいが、時間が足りない!

塚田:次は「限られた授業時間数で問題の発見・解決に繋げるには」という質問が届いています。年間授業計画を立てる上で、授業コマ数の少なさに悩まれている先生方は多そうですね。

杉山:私は「問題の発見・解決」については、生活の中で身に着けて欲しいと思っているんです。ですから、宿題にして「やってきなさい」と指示することが多いですね。生徒たちは「杉山は無茶ぶりをしてくる」と言っているみたいですが(笑)。授業では「きっかけ作り」が大事かなと。

八木:確かにコマ数は足りないと感じますが、例えばKJ法など、昔から使われている問題解決のフレームワークが多数ありますよね。その引き出しをたくさん持っておいて、その都度生徒に合ったものを選ぶようにしています。後は、生徒はのめり込むといくらでも時間をかけてしまうので、タイムスケジュールをしっかり決めてあげるのが大事でしょうね。

鹿野:どうしても授業内でやる必要があるものと、宿題など授業外に出せそうなもの、そのあたりを見極めて設計することが必要ですよね。情報科の増単については、すべての教科の単位を一旦ご破算にするくらいの大ナタを振るわないと難しい気がします。

大学入学共通テスト対策はどうなる?

塚田:コマ数の不足に関連して、「共通テスト対策で実習の時間が取れないのでは」という不安もあるようです。

八木:実際にどんな問題が出るかにもよると思うんですよ。問題解決系の傾向が強ければ実習を多めにしますし、逆に暗記系もまた然りです。ただ、定期考査を暗記中心の回と思考力中心の回で分けるという実験をしてみたんですが、これによって上位層と下位層が入れ替わるような大きな流動はありませんでした。現在はおおむね6割ぐらいが実習ですが、基本的にはそのスタイルを変えずにいこうと思っています。

杉山:本校では、高3の選択科目で情報を持ってくるのはどうかと話をしております。そこで受験向けの対策をやるかも、という感じです。

塚田:会場からは「サンプル問題では『情報モラル』の分野があまり入っていなかったようですが、 実際にはどうなりそうでしょうか」という質問も来ています。

鹿野:あくまでもサンプルですので、全体を網羅しているわけではありません。ただし、文部科学省から大学入試センターへは教科調査官の意見として「情報Ⅰの履修内容をバランスよく出してください」と要望しておりますので、本番ではそのような形になるでしょう。特に情報モラルは、入試に限らず世間一般でも必要な要素ですし、出題しないわけにはいかないと思います。

京都精華大学教授・大阪芸術大学客員教授 鹿野利春先生

他教科との連携をどう進めるか

塚田:「他教科との連携」はいかがですか? すでに実践されていることや、やってみたいことなどはありますか?

杉山:例えば授業中にキーワードを一つ与え、生徒がそれについてインターネットで調べるとしますよね? しかし、ネット上には教科の縦割りなどありません。自分が興味あるものを、芋づる式に調べていきます。ですから私は、あまり「教科横断」を気にせずに、生徒たちの好きな方向に学びを深めていきたいです。

八木:現時点でこれと言った連携はやっていませんが、各教科の先生方で個別に考えるのではなく、全体研修などを入れる必要がありますね。

鹿野:加えて気を付けていただきたいのは、大きな連携を前提としてそれに絡むスケジュールを組む場合などは、前の年にやっておくべし! ということですね。

アシアル株式会社取締役 塚田亮一

できるだけお金をかけずに取り組む

塚田:続いて、会場からご意見をピックアップしていきたいと思います。「保護者負担の教材費はどれくらい予定していますか」という質問が多く来ていますね。

杉山:私はこれまでも、できるだけお金をかけずにやってきたつもりで、今年に関してはざっくり5,000円くらいです。Adobeのクリエイティブクラウドが500円、 プログラミングに関して3,000円程度を目安にしています。

塚田:ロボットなど、物理的なものは考えていらっしゃらないんですか?

杉山:そこまでできればいいんですが、基本的にはオンライン上でできるもので実施し、もし「実物でやりたい」という子がいれば、私の私物を貸す形で対応しています。

八木:私も基本的にはお金をかけない方針です。今年はEdTechの導入補助金にも期待しています。MDMやフィルタリング、ICT 支援員の人件費を含めて年間4~50,000円の保護者負担をお願いしている学校さんもあるようですが、本校は20,000円くらいに抑えるようにしています。

塚田:公立校の予算捻出はどうでしょう?

鹿野:実は学習指導要領に仕掛けがあって、「外部機器を使用」という文言が入っているんですね。指導要領はその教育目標を実現するのが大前提です。そのために「外部機器を使用」と書かれているわけですから、「それらを使わないと目標は実現しませんよ」ということを根拠に、予算確保を要求するわけです。ただそれは、自治体が要求してくれないとモノにならないわけで、そのあたりを頑張ってもらわなければいけません。

ビジュアルプログラミングとテキストプログラミング、関連付けに課題

塚田:プログラミング学習において、八木先生はScratchから入ったという話でしたが「何を経験させてからテキストプログラミングに繋げていくと良いか」という質問も来ています。

八木:本校がScratchを選んだのは、地元の大分市の公立中学校がScratchを採用したからなんです。本校は私立中高一貫校ですが、高校から入学してくる生徒もいますので。ただ、事例発表時にも申しましたように、生徒はScratchとJava Scriptの繋がりの理解が難しかったようです。簡単なゲームであればScratchだけで作れてしまいますし、「テキストでコーディングする必要があるの?」と感じてしまう生徒もいました。ですから個人的には、可能ならいきなりテキストから入ってもいいのではないかと思っています。両方やるのであれば、ビジュアルプログアミングとテキストプログラミングの履修に、できるだけ期間を開けないほうがいいでしょうね。

杉山:本校も最初は「Hour of Code」というビジュアルプログラミングから入りました。仕組みやアルゴリズム的なところに触れた上で、実際にテキストだったらどんなふうに書かれるのかを確認させています。

「何のための情報科なのか」を忘れず、試行錯誤を続けていこう

塚田:みなさん、ありがとうございました。では最後に、一言ずついただけますか。

杉山:何がいいのか、そして今後どうなっていくのかが読めず日々悩んでいますが、それは子どもたちが今後生きていく社会も同じだと思うんですよね。私自身も失敗を重ねつつ、改善を継続していければと思います。

八木:本校は、県下ではICT 先進校としての位置付けですが、それでも課題や悩みは尽きません。情報という単一の教科だけで考えるのではなく、他教科の先生方や学校を巻き込んでやっていかなければと思います。

鹿野:みなさん、色々大変だとは思います。しかし「子どもたちのために何が必要か」を真剣に考えた結果、今の情報科の科目が作られたわけです。世の中に「ついて行く」のではなくて、世の中を「作っていく」という気持ちで子どもたちに伝えつつ、私たち大人も一緒に頑張っていきたいですね。

高等学校「情報科」事例セミナー ~情報技術を活用した問題の発見・解決~ セミナーレポート Vol.1

高等学校「情報科」事例セミナー ~情報技術を活用した問題の発見・解決~ セミナーレポート Vol.2 事例発表