2022年 情報科が変わる ―今できる準備を考える― ~セミナーレポートVol.3「中学校技術・家庭科技術分野と高等学校『情報I』の接続」~

中山先生のお話から、国は、小中学校から社会人に至るまで連続性のある情報リテラシー教育の構築を目指していることが分かりました。大学入試における「情報」の採用も、「情報Ⅰ・Ⅱ」の新設も、その流れの中にあります。では実際に、高校の「情報Ⅰ」と中学校までの情報教育はどのように繋がる計画なのでしょうか。特定非営利活動法人みんなのコード・学校支援部の千石一朗先生が、「中学校技術・家庭科技術分野と高等学校『情報I』の接続」と題して解説します。

※当セミナーは、大学入試への「情報」導入に関する正式発表(2021/3/24)前に開催されております。各講演者のコメントはその前提となっていることをご了承ください。

勘違いされやすい、小中学校でのプログラミング教育

中学校での技術・家庭科技術分野(以下、技術分野)のプログラミング学習と、高校で新設される「情報Ⅰ」の接続を考えるにあたって、その前提となる小学校でのプログラミング教育のよくある「勘違い」に触れた千石先生。

特定非営利活動法人「みんなのコード」学校支援部 千石一朗先生

「小学校では、2020年度からプログラミングが必修化されています。ただ、よく間違われるのですが、必修化されたと言っても、小学校でプログラミングを学習する授業はありません。プログラミング的思考を育む目的で、『プログラミングやコンピュータを使って算数や理科の授業をやっている』のです」。しかしそれで、子供たちが今後のSociety5.0の時代を生き抜いていけるのかと問われれば、大いに疑問だとも指摘。小学校段階から、具体的なコンピュータの使い方をもっと教えるべきではないかと私見を述べました。

小学校におけるプログラミング教育のねらいと位置付け

中学校では2021年度から新しい指導要領に沿った学習が始まりますが「ここも勘違いされがち」だそう。「新学習指導要領によって、2021年度から中学校でプログラミングが必修化されたわけではありません。プログラムによる計測や制御の学習は、旧指導要領ですでに盛り込まれています」。

新旧学習指導要領の比較。現行(旧)の中にも「プログラミング」の記載が確認できる

少ない指導者、足りない指導技術と時間

ただし「すべての中学生が一定水準に達していると考えないほうが良い」と千石先生。「中山先生のお話にもあったように、中学校の技術分野でも、免許外の先生が指導されている場合が地域によっては多い。仮に技術分野の先生であっても、プログラミングの指導が得意な方ばかりではないですから。」

また、中学校における技術分野の授業時間は、3年間で87.5時間とあまりに少ないのが現状で、そのうちプログラミング学習に使えるのは10時間ほど。新指導要領でプログラミング関連の学習事項は増えたにも関わらず、授業時間は増えないというジレンマも抱えていると懸念を示します。

中学校でビジュアルプログラミングまではマスターさせておくべし

では、中学校卒業時に生徒たちはどの程度のレベルにあるのでしょう。千石先生は「これからの中学生は小学校でScratchやmicro:bitの操作経験をしてくるため、ブロックプログラミングなど、視覚的なオブジェクトでプログラミングする『ビジュアルプログラミング』には慣れている」と言います。

ビジュアルプログラミングを経験していれば、テキストに置き換えることは容易

それであれば、中学時に一段階上の「テキストプログラミング」に踏み込むことも考えられますが、「現時点では難しい」と千石先生。先述した、先生の絶対数や指導技術、指導時間などの問題があるためです。

「したがって、テキストプログラミングについては高校でご指導いただくことになろうかと思います。ただ、生徒にブロック(ビジュアル)プログラミングの経験があれば、テキストプログラミングには比較的すんなり移行できるというのが私の実感です。だからこそ、中学校の教員がビジュアルの指導をきちんとやっておくことに意義があると思います。言い方を変えると、そこまでやっておくのが中学校サイドの責任だということです。」

中高双方で指導内容を把握し、協力体制を築こう

中学校の新指導要領(2021年度~)における具体的なプログラミング学習内容の把握には、「教科書を見るのがいいですよ」と千石先生。理科であれば、どの学年で何を学んだかがすぐに分かる「系統表」の類がありますが、情報教育を体系立てて一本化する動きになったのはここ数年のこと。そのため情報(技術分野)では、まだ有効的な系統表が国内ではないためです。「指導要領に具体的な学習内容が記載されているわけでもありません。現時点では教科書から紐解き、自分で系統表を作ってみるのが一番早いでしょう」とアドバイスしました。

系統表の見本(理科の場合)

これらをふまえ、情報Ⅰへのスムーズな接続に必要なポイントを二つにまとめた千石先生。一つは「中学校の技術分野、高校の情報分野の先生が『相互に』指導内容を知っておく」こと、そして「技術科の情報系学習に、何をどれだけ上乗せできるかがカギ」だということです。また、データベースやデータサイエンスにまつわる内容も中学校で学ぶべきではないか、双方向性コンテンツによる問題解決と、計測・制御をミックスしたような教材を高校で扱うべきではないか、といった提言も。

「中学校での技術分野内での指導だけでは、これからの社会で求められるレベルに太刀打ちできません」と強い言葉で問題を指摘する千石先生。「教員数の不足、専門性のある指導力の不足など、中学校と高校で同じような課題を抱えています。だからこそ協力して頑張っていきましょう」と呼びかけました。

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