2022年 情報科が変わる ―今できる準備を考える― ~セミナーレポートVol.4 「生徒と教師が一緒に学ぶプログラミング授業」~
ここまでの先生方のお話から、「情報Ⅰ・Ⅱ」の導入や大学入試への採用など、ハイレベルな情報教育が求められる一方で、それを教えられる先生の人員数や指導スキル、授業時間数などに課題があることが分かりました。これに対し「生徒と共に教員も学び、成長していくことだ」と語るのは私立成城中学校・成城高等学校の松原圭太先生。自らもプログラミングは素人レベルだったと言う松原先生、いかにして授業を作り上げてきたのでしょうか。弊社のアプリ開発プラットフォーム「Monaca」の活用事例を用いて語っていただきました。
※当セミナーは、大学入試への「情報」導入に関する正式発表(2021/3/24)前に開催されております。各講演者のコメントはその前提となっていることをご了承ください。
先生よりも高いプログラミング知識を持つ生徒
松原先生はもともと数学科の教諭で、途中から情報科の教員免許を取得したという経歴の持ち主です。しかしそれまで、学校の環境が整っているとは言えませんでした。「他の先生方のお話にもあったように、本校でも専任教師が不在で、端末の性能も不安定。『情報Ⅰ』導入に向けてはもちろん、その時点ですでに課題は山積していました」。
いざ情報の授業(情報の科学)を受け持つことになり教材研究を始めたものの、特にネックだと感じたのが「アルゴリズムとプログラム」の単元。生徒の知識レベルはバラバラで、これに適した汎用的なプログラミング言語の選択が難しかったのです。加えて最大の問題は、松原先生自身がプログラミング未経験だったこと。
「素人同然の生徒もいれば、学校外でハイレベルなプログラミング学習を経験してきた生徒もいます。場合によっては教員のほうが知識に乏しい状態になり、授業が成立しない可能性もあったのです。その中でどの言語を選択すべきか、頭を抱えました」と、当時の悩みを明かします。
「教師として格好悪い」というプライドを捨てた
結果として松原先生が選択したのは弊社の「Monaca」。ブラウザ上で起動することと、HTML、CSS、JavaScriptの3種類の言語に触れられる汎用性が決め手だったそうです。
さっそく授業準備に取り掛かりましたが、一貫していたのは「自分は初心者である」と素直に受け止めること、そしてそれを生徒目線に活かすことでした。まず、授業計画は「Monaca」の入門テキストにそのまま沿う形で自らプログラミングを実体験。「自分でやってみることで、生徒が躓きそうなポイントを単元ごとに想像して授業計画を立てました」と松原先生。まさに自身が初心者だからこそ得られた視点かもしれません。
授業にあたっても「思い切って開き直ることにした」と言います。「すでに高いプログラミング知識を有する生徒には太刀打ちできません。そこで入門テキスト(上述)に記載のある内容については質問対応する、それ以上の私も分からないレベルの質問は『生徒と一緒に悩む』という選択をしました」。
教師として格好悪い、先生は偉くないといけないという変なプライドにこだわることをやめたと言う松原先生。「実際に授業中、生徒が間違いを指摘してくれることもありました。『一緒に授業を作る』のもいいじゃないかと思えるようになったんです」。
「今あるもの」をうまく活用
授業運営については、ハイレベルな生徒の力を活かすべく「生徒同士の教え合いOK」とし、さらに「分かる生徒はどんどん先の内容に進んでも良い」としました。
では、実際の授業の内容はどんなものでしょうか。最初は「Monaca」にサンプルとして搭載されているブロック崩しゲームのプログラミングを使って、ボールの数を増やしたり、バーの長さを変えたりすることに取り組みました。ほかにもBMI(肥満度を表す指数)を計算するアプリを作るなど、「まずは生徒たちに『プログラミングって面白い』と思ってもらえることに留意した」ためです。プログラミングに関心を抱いてもらってからは、入門テキスト(上述)にしたがって徐々に学習を進めていきました。BMI(肥満度を表す指数)を計算するアプリなど、生徒が関心を持って取り組める課題が掲載されているので、授業は設計しやすかったようです。
また、弊社が作成した解説動画をGoogle Classroomで配信したり、先行して「Monaca」を活用している和歌山県教育委員が公開しているプログラミングシートを配布するなど、すべて自分でやろうとするのではなく「今あるもの」をうまく活用していきました。
さらにデータベースの学習においては、無料サービスの「ニフクラ mobile backend」と連動し、先述のブロック崩しゲームにランキング機能を追加することにも挑戦。「ブロック崩しクラス内マッチ」などのミニ大会にまで発展し、授業は大いに盛り上がったそう。ここに生徒同士の教え合いも加わり、どんどん主体的・協働的な学びの姿勢が見えるようになったと言います。また、複数のクラスで授業を受け持つうち、生徒たちがだいたいどこでミスをするか分かるようにもなってきました。
これからも生徒と一緒に学び続けたい
最初は自らの知識・スキル不足から「どうなることか」と思っていたという、同校のプログラミング授業。少しずつコツも見えてきました。しかし松原先生は力強くこう断言します。「これからも生徒と一緒に学びます」。
生徒たちがプログラミングへの興味関心を高め「翌年度以降で『文化祭用のアプリを作りたい』と言い出したら成功かなと思っています」と笑う松原先生。未知のものから逃げるのではなく「とりあえずでもやってみる」という姿勢は、プログラミングの枠を越えて生徒たちの範にもなっているはずです。