2022年 情報科が変わる ―今できる準備を考える― ~セミナーレポートVol.2 「情報入試最新情報 ―入試準備のためのロードマップ―」~

続いては、気になる「大学入学共通テストへの情報科目の採用」について。教えてくださるのは情報処理学会理事、電気通信大学大学院の中山泰一教授です。約10年も前から「情報」の入試導入を想定し、「情報入試研究会」を設立して研究を重ねてこられた「情報科と入試」の専門家でもあります。

講演テーマは「情報入試最新情報 ―入試準備のためのロードマップ―」。2025年に迫った「情報」の大学入試導入に向け、私たちが現場でなすべき準備とは何でしょうか。

※当セミナーは、大学入試への「情報」導入に関する正式発表(2021/3/24)前に開催されております。各講演者のコメントはその前提となっていることをご了承ください。

もう準備を始めなければいけない

中山先生が一貫して投げかけたこと――それは「急がなければいけない」という事実。共通テストへの「情報」導入は4年後の2025年ですが、その準備は「今からやるべきだ」と言います。

中山先生によると、国として情報教育に注力することを明確に示したのが2013年。現行の高校学習指導要領が実施された年でもあります。「世界最先端IT国家創造宣言」が閣議決定され、小学校でのプログラミング教育の必要性に言及しました。

しかし中山先生は、情報教育のトップランナーの一人である小原格先生(東京都立町田高等学校)の言葉を借り、当時の印象をこう指摘します。「情報教育が重要だと言う割には、情報科の教員採用は少なく、政策とのギャップを感じました」。どうやら、国の目指す方向と現場の現状には大きな乖離があるようです。

電気通信大学大学院情報理工学研究科教授・中山泰一先生

初等中等教育における情報教育の変遷

ハイレベルな内容が予測される情報科の入試

こうした課題をふまえつつ、まずは「情報」の入試内容から言及を始めた中山先生。2020年11月に大学入試センターが示した「試作問題(検討用イメージ)」を分析し、このように評価しました。「入試は、必履修科目である『情報Ⅰ』から出題されます。『情報Ⅰ』の学習内容は4つの領域で構成されていますが、全領域がまんべんなく押さえられているという印象です」。

そして、ここに大学入試センターのメッセージが強く表れていると指摘します。「それだけ(入試にあたっては)『きっちり勉強してきなさい』ということでしょう。加えて大きいと思っているのが、北海道・東北・東京・東京工業・名古屋・京都・大阪・九州大学で構成する『8大学情報系研究科長会議』の要望です。情報Ⅰだけでなく情報Ⅱまでを出題範囲に入れられないか、と進言してきています」。どうやら、入試のレベル的にも相応なものが求められることになりそうです。

この状況を受け、さっそく生徒に試作問題を解かせ、その研究成果をまとめた先生もいらっしゃるそう。(*1)そもそも大学入試センターが試作問題の情報を公開したのも、「情報Ⅰ・Ⅱ」および入試への導入開始に向け、このような現場での実践や検証を今からすぐ始めなさい、という意思表示だと言います。

大学入試における「情報」の試作問題

大学入試における「情報」の出題領域

圧倒的に少ない、情報科教員の「採用」

では、これらの情報教育を実践する、高校の情報科教員の状況はどうでしょうか。2013年のデータによると、67,111人いる高校の教員免許状所有者のうち、情報科の免許状を持つのは1,826人。全体の約3%です。決して多いわけではありませんが、「それ以前の問題がある」と中山先生。

それは情報科教員の「採用」。同年の公立高校の採用数を見てみると、全4,911人中、情報科の教員はわずか34人。割合にして0.68%なのです。「情報科の教員はほとんど採用されていないということ。授業も、臨時免許状や免許外教科担任の制度が特例的に多用されているのが現状です。他の教科と比べても突出しています」。中山先生の懸念そのままに、文科省も2016年、情報科教員を積極採用するよう各都道府県に警告を出しています。

現在、情報科を担当する先生方のうち、情報科専任は約20.4%です。ただしそれは、あくまで全国平均。東京、埼玉、沖縄など85%を超えている都県もあれば、10%にも届かない県もあるそう。

情報科の教員数および採用数

全国における情報科の専任教員率

「厳しい言い方かもしれませんが」と前置きして中山先生は言います。「『情報科の教員が足りない』と言っている道県もあります。ただ、それはそのような道県に問題があると言わざるを得ません。文科省は、5年も前から情報科教員を積極採用するよう警告を出していたわけですから」。

現場から情報教育の重要性を訴え続けよう

国は、小中学校から大学まで一貫した情報教育カリキュラムの体系化を目指しています。入試に「情報」を採用することもその一環です。しかし現場は、情報科教員の採用不足に見られるように、追いついていません。

大学側にも情報教育の必要性を理解してもらうことが大事で、「情報」が共通テストに採用された場合、どれだけ多くの大学が「情報」を入試科目に指定するかが重要だ、と中山先生。「私たち情報科の教育を担当する者が、それを訴え続けていかなければいけません」と強く呼びかけ、講演を締めくくりました。

国が目指す情報リテラシー教育の段階的イメージ

*1 井手 広康 : 大学入学共通テスト「情報」試作問題に対する教育現場の想い,情報処理, Vol.62, No.5, pp.254-257 (2021).

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