動機づけ、評価、授業づくり、プログラミング教育の課題について語り合おう 〜プログラミング教育実践事例研究会(3)〜

アシアル情報教育研究所は2020年2月23日に、「プログラミング教育実践事例研究会」を開催し、その様子を第1回、第2回のレポートでお伝えしました。最後となる今回は、実践発表でご登壇いただいた先生方による座談会の模様をレポートします。

中学校・高等学校の教師がこだわるプログラミング学習のポイントとは? 〜プログラミング教育実践事例研究会(1)〜

高校のプログラミング教育は“課題解決で社会とつながる”が重要 〜プログラミング教育実践事例研究会(2)〜

座談会の様子

研究会の最後は、アシアル情報教育研究所 所長の岡本がモデレーターになり、実践発表でご登壇いただいた先生方を囲んで座談会を設けました。座談会では、会場からも質問が飛び出すなど話も盛り上がりました。

改めて、座談会のメンバーを紹介します。

  • 新潟大学附属長岡中学校 保坂恵教諭
  • 野田学園高等学校 情報科 天川勇二教諭
  • 静岡県立島田商業高校 商業科 鈴木滋教諭
  • 沖縄県立美来工科高等学校 電子システム科 友利悟教諭
  • アシアル情報教育研究所 所長 岡本雄樹(モデレーター)

Q. 生徒をプログラミングに動機づけさせる方法を教えてください

最初に取り上げた質問は、多くの教師たちが悩む「プログラミングへの動機づけ」という課題。コンピューターが好きな生徒もいれば、そうでない生徒もいるなかで、プログラミングに興味を持って取り組ませるにはどうすればいいでしょうか。

保坂教諭はあくまでも中学生の場合はと前置きをしつつ、「ゲームや動画など、アプリのサンプルを教師が作り、それを見せて生徒が“面白そうだな”と思ってもらえるように、授業の導入を考えている」と話してくれました。実際の動きを見せて目標を持たせることや、完成形のイメージを持たせることで、自分も作ってみたいと思う気持ちを促すようにしているというのです。

天川教諭は、「まずは教師自身がわくわくするものをやるのがいいだろう」と述べました。また“プログラミング”と限定的に捉えず、プログラミングから少し離れて何かとつなげてみるのも良いといいます。たとえば、Scratchとmicro:bitを合わせて身体を動かすプログラムを作るという具合。それにより、今まで気づかなかった新しい発見につながるというのです。

鈴木教諭は、課外授業で中学生にPepperのプログラミングを教える経験などを踏まえて、「身の回りのものが、どのように動いているのかを知ることから入るのが良いだろう」と述べました。たとえば、Googleアナリティクスを使ってホームページを見たりするのも一つの方法。どのような仕組みになっているのかを知ることで、プログラミングに対する興味も増すのではといいます。

「(サンプルアプリなどを)少しずつ改変させて興味を持たせるのが良い」と話すのは友利教諭。またプログラミングの授業では早くできた生徒に、“できない子が質問したら教えてあげて”という環境をつくり、生徒同士が教え合う場をつくることも大切だといいます。友利教諭は、早くできた生徒が改変するのをどんどん褒めて、生徒たちのモチベーションを高めているということでした。

新潟大学教育学部附属長岡中学校 保坂恵教諭 (写真真ん中)

Q.これからプログラミング教育に取り組む先生は、どのように知識を身につけるのが良いでしょうか?

情報や技術の授業でプログラミングを教える先生は、必ずしも専門知識やプログラミングの経験がある方ばかりではありません。学校によっては、他の科目の先生が情報の授業を兼務する場合もあります。そのような先生がどのようにプログラミングを学び、授業で教えていけばいいでしょうか。

「自分もあまりプログラミングの経験があるわけではない」と話すのは保坂教諭。ただし、「ものづくり×デジタル」には魅力を感じるので、プログラミングもその延長で楽しんでいるといいます。「授業では、子供たちが主体的に楽しく動けるにはどういう学習がいいかを考え、それに必要な知識は何か、教師が用意したものを活用したり、子供が自分で調べたりして学んでいる」といいます。また天川教諭も同様に、「プログラミングの知識はググれば出てくるので、プログラミング教育の“教育”の部分を先に考えて、それに合わせた知識を習得していく」と話してくれました。

鈴木教諭は自身がどのようにプログラミングを学んだのかについて紹介。「Javaを勉強し始めたのは35歳から。その後、時代はホームページになりHTMLを勉強。授業で活用するに応じて自分も学んでおり、やりながら勉強すればいい」と述べました。

友利教諭は、「まわりを巻き込んでやることを大切にしている」と語ってくれました。教師はどうしても一人で抱えてこんでしまうことがありますが、そうではなく、一緒にできるメンバーを探すというのです。手段としては、教員研修会、教員向けの勉強会に行くのが良いといいますが、そういう機会もない教師は、MonacaのFacebookコミュニティなどで情報交換を行うのもひとつの方法。他の教師とつながりながら取り組むのが良いと話してくれました。

野田学園高等学校 情報科 天川勇二教諭 (写真左)

Q.“楽しい”だけでいいのか。高校のプログラミング教育は、“苦労してできた”プロセスを取り入れるべきか?

ここで会場から質問が挙がりました。「小中学校は“プログラミングって楽しい”が大切だと思うが、普通科高校のプログラミング教育においては、楽しいだけでなく、ある程度、苦労させて作れるものを与える方がいいのではないか」という質問。先生方の意見も2つに分かれる結果となりました。

工業高校の友利教諭は「苦労は、どうしても必要になる。学校の特性上、形になるものを動かせるのが理想。アプリが作れるだけでは足りず、動くものを作れるレベルまで技術を身につけることができればと考えている。」と語りました。苦労する、しないの話ではなく、学校としてめざす目標に到達させることが大前提にあるというのです。

商業高校の鈴木教諭は、苦労して作る方が後々使える技術を身につけることができるという意見を言及。「生徒にはサクラエディタを使わせている。“そんなの使わせなくていいよ”という意見もあるだろうが、APIを使って楽に作るよりも、仕組みを学べるので有効。どのように動いているのかが分かることで、使える技術と知識を身につけられる」という考えを話してくれました。

一方で、普通科高校の天川教諭は「普通科のプログラミング教育は、コンピューターが好きな生徒ばかりではなく、いろんな生徒がいる。プログラミングはむずかしかったという結果で終わるのではなく、“できた、楽しい”という経験をさせて、次につなげることが大切ではないか」と述べました。同じく保坂教諭も「自分もプログラミングが得意じゃなかった。楽しく学べる環境が良いのでは」と話してくれました

静岡県立島田商業高校 商業科 鈴木滋教諭 (写真真ん中)

Q. プログラミングで「作った!できた!」を体験した後、「…で?だから?」という展開になってしまう。どうすればいい?

こちらの質問も会場から飛び出しました。おそらく、多くの先生方がプログラミングの授業で同様の経験をされているかもしれません。プログラミングの授業を深めるためにはどうすればいいか。登壇された先生方からヒントをいただきました。

保坂教諭はMonacaを使う授業に関しては、先にゴールを見せてしまい、1時間で1課題をクリアし、3時間目まで行ったら1つの作品として必要な技術が一通り完成するような構成で進めているといいます。「ゴールの姿を見せることに比重を置いています。私はここまでいきたい、あなたたちも考えてねと投げかけ、目的を共有できることが重要だと考えています」と保坂教諭は話してくれました。

自身の失敗談を語っていただいたのは天川教諭。以前、“どんな人でも楽しめるデジタルスポーツを考えよう”をテーマに、micro:bitを使ったデジタルスポーツを運動会で実施したときのこと。スポーツが不得意な生徒にとっては良かったが、もともと得意な生徒にとっては楽しめなかったといいます。「失敗した原因はテーマ設定。テーマが広すぎて、学習者の自分ごとにならなかった。プログラミングよりもテーマ設定にこだわっていくことが大事ではないか」というアドバイスをいただきました。

鈴木教諭は、「授業以外の活動も大切だ」という意見を述べました。同教諭の場合はオープンソースカンファレンスに参加するなど、生徒が現場の人と会う機会を設けているといいます。またLINE Botなど身近なツールを教材に使うことも有効だと教えていただきました。プログラミングが社会とどのようにつながっているかを生徒に見せることが重要だというのです。また友利教諭は、ゲームを作るのが良いという意見を披露。「ゲームを作らせることについてはさまざまな意見もあるだろうが、やっぱり生徒たちのゲームに対する反応は良い」と語ってくれました。プログラミングを学ぶことで、地域課題解決のアプリやIoTなどに繋がっていくことに関連付ける。経験させたことが、今後に繋がっていけばよいと考えている。

沖縄県立美来工科高等学校 電子システム科 友利悟教諭

Q. プログラミングの評価はどうしていますか

最後の質問となったのは、プログラミングの評価。生徒たちが作成した作品をどう評価すればいいのか。グループの場合は?個人は?さまざまな評価軸がありますが、登壇された先生方はどのように評価されているのでしょうか。

保坂教諭はグループでやる場合も、個人のものを作るようにし、中間と最終で評価を行っているといいます。「ビフォー、アフターが分かる形で記録に残し、生徒が見ても“自分はこれができるようになった”という気づきが得られるようにしている」といいます。ルーブリックでは3段階程度の評価として幅をもたせ、サンプルプログラムを基に改変して動いたらOK。その後、授業のまとめとして、アプリを操作したり、対象が使いやすくなるように、技術を活用して工夫したりした点を説明して単元(題材)を終えることを生徒と合意して進めています。

天川教諭もルーブリックの評価を用いています。プログラミングの前に仕様書を書いてもらうことで個人評価に活かし、技術面の評価は生徒1人1人が作成する作品で評価。グループ活動においてはスキルの評価は行っていないということです。

鈴木教諭は観点別評価を行っており、年度の最初に生徒と共有。生徒の評価については、グループ内の評価や生徒同士の相互評価も取り入れて、全体の評価に活かすといいます。友利教諭も同様に、評価項目は先に生徒に提示。工業高校であるため作業の各工程でどれだけできているかも評価対象になると説明します。「作品が動くことを重視していますが、失敗してもいいと言っています。何を改善したのかが説明できることが大事で、そこが評価のポイントにもなります」と語ってくれました。

以上が座談会の内容になります。座談会では、プログラミング教育に関わる先生方のリアルな声を聞くことができ有意義な時間を送ることができました。このような場をつくることで、先生方の交流を増やし、プログラミング教育を前進させるきっかけづくりを今後も取り組んでいきたいと思います。

研修会にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。