高校のプログラミング教育は“課題解決で社会とつながる”が重要 〜プログラミング教育実践事例研究会(2)〜

2020年2月23日、アシアル情報教育研究所は、2022年高等学校プログラミング必履修化に向けた「プログラミング教育実践事例研究会」を開催しました。同研究会の様子は、第1回目のレポートでもお伝えした通り。第2回目の本稿では、前回に続きMonacaを授業で活用されている先生方の発表をレポートします。

中学校・高等学校の教師がこだわるプログラミング学習のポイントとは? 〜プログラミング教育実践事例研究会(1)〜

オープンデータを活用して、高校生が行ったことがない地域の課題解決に挑戦!

研究会の後半は、静岡県立島田商業高校 商業科 鈴木滋教諭の発表から始まりました。同教諭は「高校生によるオープンデータを活用した地域貢献アプリ」と題して、Monacaを活用したアプリ制作の取り組みについてお話いただきました。

静岡県立島田商業高校 商業科 鈴木滋教諭

鈴木教諭がMonacaを授業で使い始めたのは、2016年のこと。同教諭は2014年からオープンデータを使ったアプリ制作に取り組んできましたが、生徒の興味・関心が変わってきたこと、学校のセキュリティが厳しくなったことを受けて、それまで扱っていたサーブレットやJAVAから、JavaScriptに変更するために『Monaca』を選択しました。

とはいえ、これまで鈴木教諭が行ってきたプログラミングの授業自体が大きく変わったわけではありません。同教諭は授業では、生徒たちがアイデア出しやUIから考えること、プログラミングだけでなく、プレゼンテーションやデータづくりも重視していること、さらには、作ったアプリを共有し、生徒同士が相互評価する活動を取り入れている点などが説明されました。「1人で作業を行う時間もあるが、ある程度できあがったら3人チームでまとめる」と、チームとしての活動も大切にしているとのことです。

鈴木教諭が実施するプログラミングの授業デザイン

鈴木教諭はMonacaを導入した初年度、自治体が公開しているオープンデータと「Monaca」を使ってアプリ制作に挑戦しました。Googleのマイマップも使いながら、近くの温泉を表示するアプリなどを作成。また続く2017年には、Monacaに加えて「ニフクラmobile backend」を導入し、クイズアプリの作成やコインロッカーを探すアプリを作成しました。コインロッカーのアプリについては、偶然、インストールしてくれた中国人に出会い、“ここが使いづらかった”という意見をもらうこともできたといいます。鈴木教諭は「アプリ制作を通して、思いがけない体験ができた。生徒たちにも良い経験を与えられると思った」と述べ、生徒たちの世界を広げるきっかけにもなったようです。

2017年にMonacaを使って作成したアプリ。左から、深海魚のアプリ、コインロッカーのアプリ、防災のアプリ。

また2017年からは、プログラミングを学んだことがない総合ビジネス科の生徒に対しても授業を行うことになった鈴木教諭。生徒たちに少しでも興味・関心を持ってもらえるようMonacaを使って、身の回りの困りごとを解決するアプリを考えました。といっても、生徒たちは全くプログラミングの知識がないため、最初にWebデータベースサービス「Kintone」を用いてHTMLを簡単に体験し、オープンデータについても学習。その後、Monacaを使ったアプリ制作に入ります。生徒たちから出たアイデアをもとに、最終的には肉体改造をテーマにしたアプリの制作に絞り、フリー素材をうまく使ってMonacaで作成しました。この授業では、作ったデータを「LinkData」にアップし、パワーポイントのスライドは「SlideShare」で共有。「Prezi」を使ったプレゼンテーションにも挑戦するなど、さまざまなサービスと連携して進めたと鈴木教諭はいいます。

プログラミングを学んだことがない総合ビジネス科の生徒が作った肉体改造のアプリ

2019年に鈴木教諭が取り組んだプログラミングの授業は、さらに進化しています。今までの環境に加えて、Monacaに標準搭載されているUIフレームワーク「Onsen UI」を導入し、デザインもより工夫できる環境を用意。またプログラマーのための技術情報共有サービス「Qiita」も使用し、さまざまな地域のオープンデータを活用したモバイルアプリの制作に取り組みました。鈴木教諭は「その地域に行ったことがない生徒も、オープンデータから課題やヒントを見つけて、“私たちだったらこういうアプリを作りますよ”と提案できるのが良いところ。今のネット社会だからできる授業だと思います」と語ってくれました。実際に生徒たちが作った地域貢献アプリはさまざま。アイデア溢れるアプリが作られています。

生徒たちが作った地域貢献アプリ

なかでも注目したいのは、リトアニア語で平塚市の飲食店を紹介するアプリ「Hiratsuka Maistas」を作成した生徒たち。オリンピックでリトアニアのホストタウンになっている平塚市が、リトアニア語の情報発信に課題を抱えていることを知り、同アプリの制作を思いついたといいます。生徒たちは、平塚駅前の飲食店のデータをニフクラmobile backendに蓄積し、Google翻訳機能を使って情報を提示。お気に入り機能も設けるなど工夫しました。鈴木教諭は「アプリの制作を通して、自分で課題を見つけて解決できる力を身につけてほしい」と想いを述べます。生徒たちがアプリの制作を通して社会とつながり、自分たちの世界を広げているのが印象的な発表でした。

リトアニア語で平塚の飲食店を紹介するアプリ「Hiratsuka Maistas」

学校でiPhoneアプリを作成。授業でMonacaを使うメリットとは?

実践発表の最後に登壇いただいたのは、沖縄県立美来工科高等学校 電子システム科 友利悟教諭です。「課題研究を活用したアプリ開発」というタイトルで、同教諭の取り組みをお話いただきました。

沖縄県立美来工科高等学校 電子システム科 友利悟教諭

友利教諭がMonacaを知ったのは、前任校である宮古工業高校にいた2014年。宮古島出身の友利教諭は、宮古島の方言が絶滅状態にあることを知り、課題研究の授業でアプリを作成することで、その継承に貢献できないかを考えました。友利教諭が当時の生徒たちと作ったのは、宮古島の方言を話すキャラクターが登場するAndroidアプリ。4コマ漫画も出るように工夫した同アプリは地元でも話題になり、“iPhoneアプリも作ってほしい”と友利教諭の元へ依頼が舞い込みました。

友利教諭らが宮古島の方言を継承するために作成したアプリ

とはいえ、「学校にはiPhoneアプリを作るためのMacがなかった」と話す友利教諭。そこで、iPhoneアプリを作る方法がないか探し始めたところ、Monacaに出会ったといいます。そして、完成したiPhoneアプリも、友利教諭らの予想を越えて大きな反響に。地元メディアに取り上げられたり、全国産業教育フェアに出展したりと大きな動きに発展していきました。

2015年になると友利教諭は、工業高校の授業にMonacaを導入。「最初は学年末の数時間で試行錯誤しながら、サンプルアプリから作成して改編し、プレゼンテーションを行うという授業を実施しました。プレゼンテーションは評価や情報共有のために行いました」と友利教諭は当時の授業を教えてくれました。また、その頃の友利教諭は東京で開催されたMonacaの研修会にも参加していたといいます。そこでの新たな出会いがきっかけになり、アシアル情報教育研究所 所長の岡本が宮古島で出前授業や教員研修会に講師として赴くなど、交流を重ねてきました。

工業高校の生徒たちが作ったアプリのプレゼンテーション

2017年から現在の美来工科高等学校に赴任した友利教諭。同校でも課題研究の授業でMonacaを活用したアプリ制作に取り組んでいます。たとえば、小学生向けの学習アプリに挑戦したときのこと。ひらがとカタカナが学べるクイズゲームや神経衰弱のアプリや、簡単な計算アプリを作成しました。計算アプリについては、“ムシキングのようなゲーム性をもたせたい”というアイデアを生徒が発案。友利教諭は「特許は大丈夫かと思って『J-PlatPat』で調べたところ、ムシキングのアルゴリズムが公開されていることを知りました。そこに計算要素を加えてアプリを制作しました」と述べました。

生徒がMonacaで作成した小学生向けの計算アプリ

また部活動でもアプリ制作に取り組む友利教諭。「生徒からアプリを作りたいという声が上がり、身近で不便なことを解決する方法を考えさせたところ部活動の連絡アプリを作成することになった」といった例を取り上げ、実際に作られたアプリを紹介しました。ログイン機能とチャット機能を設け、シンプルに仕上げています。アプリの作成にはMonacaとニフクラmobile backendが使われているとのことです。友利教諭は「この生徒に対しては、自分がプログラミングを教えたわけではない。Monacaとニフクラの本を渡しただけで、あとは生徒が自分でアプリを作った。生徒はやる気さえあれば、書籍やインターネットの情報を活用し、適宜声がけやアドバイスをすることでアプリの作成ができる。先生が全部教える必要はない」と述べました。

生徒がつくった部活動専用の連絡網アプリ

こうした活動を踏まえて友利教諭は、改めてMonacaをプログラミングの授業で使うメリットについて語ってくれました。「クラウドで管理しているので、データが消えたりする心配はない。自宅学習も可能。私が一番好きなのは、実行結果がすぐに見られること。生徒にとっても分かりやすくて、各自のスマートフォンで動かせるのがメリットです」(友利教諭)

友利教諭が考えるMonacaを授業で使うメリット

友利教諭は今後について、「地域と連携する取り組みを進めていきたい。課題を発見して、試行錯誤しながら解決につなげる学習を大切にし、IoTやロボットなどの工業分野のアプリ開発にも取り組んでいきたい。」と抱負を語ってくれました。プログラミングは手段でしかなく、大切なのは自分で課題を解決できるマインドを持つことだというのです。

第3回へ続く。

動機づけ、評価、授業づくり、プログラミング教育の課題について語り合おう 〜プログラミング教育実践事例研究会(3)〜