2022年 情報科が変わる ―今できる準備を考える―  ~セミナーレポートVol.1 新学習指導要領「情報Ⅰ」・「情報Ⅱ」とは~

2022年、いよいよ完全実施が迫る高校の新学習指導要領。その中核とも言われる情報科目の再編成と共に、その内容も大きく変わります。また、以前から構想が進められてきた大学入学共通テストへの情報科目の導入も、ついに正式発表されました。「情報」をとりまく教育環境は、まさに大きなうねりの中へ突入したと言えそうです。

そこで、アシアル情報教育研究所は東京書籍株式会社との共催で、2月27日(土)、「2022年 情報科が変わる ―今できる準備を考える―」と題してオンラインセミナーを開催。290名という参加者の数が、その重要性・関心度の高さをさらに裏付けます。情報科目は何がどう変わるのか? 中学との接続は? プログラミング授業は? 入試は? 5名のエキスパートがネットワーク上に集い、最新情報の解説と共に、パネルディスカッションで「情報」の未来を熟議しました。

※当セミナーは、大学入試への「情報」導入に関する正式発表(2021/3/24)前に開催されております。各講演者のコメントはその前提となっていることをご了承ください

情報活用能力が「なくてはならぬ力」として認識された

そもそも、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」への改編とはどんな内容なのでしょう。トップバッターとして登壇した榎本竜二先生(聖心女子大学非常勤講師)が、『新学習指導要領「情報Ⅰ」・「情報Ⅱ」とは』と題して解説します。

聖心女子大学非常勤講師・榎本竜二先生

「情報Ⅰ・Ⅱを理解するためには、まず新学習指導要領の根本を理解する必要がある」と榎本先生。新学習指導要領では、育成すべき力の三本柱を設定しています。いわゆる「1.知識・技能」「2.思考力・判断力・表現力」「3.学びに向かう力」です。

榎本先生はこれまでの学習指導要領との注目すべき違いとして「すべての教科が三本柱に沿って整理・再構築されていること」を挙げます。新しい情報科も例外ではないということです。

また、その基礎となる「育成すべき資質・能力」の中に「情報活用能力」が加えられたことも大きいと指摘。「現行の指導要領の中にも、文言として『情報活用能力』の記載はありましたが、新指導要領では基礎、つまり『なくてはならぬ力』として位置付けられたわけです」と強調します。

基礎となる資質・能力としての情報活用力と、その学習内容のイメージ

統合・新設される「情報Ⅰ」と、上位科目の「情報Ⅱ」

では、この「なくてはならぬ力としての情報活用能力」を育てるにおいて、従来の情報教育と何が違うのでしょうか。まず見てみたいのが、今回の改訂によって、現行の「情報の科学」と「社会と情報」を統合して新設される「情報Ⅰ」です。

榎本先生によると、その具体的な内容は「法規・制度」「情報モラル」「プログラミング」「データサイエンス」など。

さらに「情報技術を“創造的”に活用し、情報社会の“発展に寄与”すること」を目的に、情報Ⅰの上位科目として設定されたのが「情報Ⅱ」です。AI、コンテンツ制作、モデル化・シミュレーションなどを学びます。

情報教育の変遷と情報Ⅰ・Ⅱへの統合イメージ

情報Ⅰの履修内容を大まかに示した図

情報Ⅱの履修内容を大まかに示した図

実社会での応用を想定。もはや情報科はレクリエーションの延長ではない

ここだけを聞くと「社会と情報」「情報と科学」が「情報Ⅰ」へと名前が変わっただけと思われるかもしれませんが、もちろんそうではありません。榎本先生は、大きな違いがいくつかあると言います。

「一つが「データの活用」です。これまでが、単純に『データを表に整理する』『統計する』『分析する』といったテクニック止まりの内容だったとすると、これからはきちんとした『統計の考え方』『データの活用』まで踏み込みます」(榎本先生)。

「情報Ⅰ・Ⅱ」における「データ活用」部分の内容

プログラミング学習も変わるそうです。「以前は、アプリケーションの作成など個人作業を主体としていたものが、『情報Ⅱ』の登場によって、それらが組み合わさった『情報システム』として稼働することを想定した内容になりました。実社会に例えるなら、企業が商品として納品するところまで想定したレベルです。言わばシステム全体の設計を学ぶということです」。

こうした違いだけでも、新学習指導要領における「情報Ⅰ・Ⅱ」が、いかに「なくてはならぬ力」として扱われているのかよく分かります。もはや情報科の学習は、レクリエーションの延長でも、一部の特殊な職に就く人向けのものでもなくなった、と言えるでしょう。

「情報Ⅰ・Ⅱ」における「プログラミング」部分の内容

「情報を扱う」ことの楽しさとは何か

では、これら「情報Ⅰ・Ⅱ」を授業で教えていくにあたって、教員側に必要なものは何でしょうか。榎本先生は「教科書採択のスケジュールから逆算すると、2021年度の4月には(2022年度からの)教材活用計画を、6月には授業の年間計画を立てておかないと間に合わない」と警鐘を鳴らします。

「情報Ⅰ・Ⅱ」導入へのタイムスケジュール

さらに「情報Ⅰ・Ⅱ」だけでなく「その先」まで見据えて欲しいと呼びかけます。そもそも情報科は、一般教科・共通教科としての「情報」と、専門教科としての「情報」で構成されます。専門教科は、専門高校の生徒が学ぶような「職業として使える」レベルの高度な内容ですが、「情報Ⅰ・Ⅱ」は普通科で必履修する一般教科・共通教科です。

「ただ、高校の生徒育成方針によっては、情報Ⅰ・Ⅱを学んだのち、選択科目でもっとハイレベルな専門教科の内容に踏み込みたいというケースもあるでしょう。情報Ⅱよりさらに専門的な科目群も用意されていることは、ぜひ知っておいてほしいです」と榎本先生。最後に、聴講者にこんなエールを送り、バトンタッチしました。

「高校生は『情報=コンピュータの操作』くらいに思っており、まだ『情報』の何たるかを知りません。スマホが扱えるだけでは『情報を扱った』とは言えないのです。『情報を扱う』楽しさとは、ものを知ること、考えることの楽しさだと思います。それをふまえて『情報Ⅰ・Ⅱとは何か』という本質を理解して欲しいです。そして生徒たちが『情報を扱える』ようになるために、何を伝えるべきか考えてください。その実践事例は、これから登壇される先生方が教えてくださるでしょう」。

2022年 情報科が変わる ―今できる準備を考える― ~セミナーレポートVol.2 「情報入試最新情報 ―入試準備のためのロードマップ―」~