高等学校「情報科」セミナー:高校の現場から見る大学入学共通テスト「情報」セミナーレポートVol.1

「大学入学共通テストに『情報Ⅰ』が加わります」/東京都立田園調布高等学校 校長 福原利信先生

2025年の大学入学共通テスト(以下、共通テスト)での導入が正式に決まった「情報」。あらに、その出題範囲となる新科目「情報Ⅰ」の開始は、半年後(2022年度~)に控えています。一方で、2単位という限られた授業時間の中で本当に必要な知識や技術を伝えきれるのか、どう対応すればいいのかという不安も多数。そこで今回は、実際に高校の現場に立つ2名の先生方より、現状と対策についてご解説いただきます。予想を大きく上回る650名という参加者数からも、その関心の高さが強く表れたセミナーとなりました。

「共通のゴール」なき、これまでの情報科教育

東京都立田園調布高等学校の福原利信校長先生は、もともとは数学科の担当。平成15年、高校に「情報科」が設置されると同時に情報科教員となられています。また、全国高等学校情報教育会会長、東京都高等学校情報教育研究会会長も務めるなど、その黎明期からの変遷のすべてを現場で経験して来られましたた。その視点から、共通テスト「情報」導入に至るまでの「これまで」「現状」「これから」、三つの視点で語っていただきます。

東京都立田園調布高等学校 福原利信校長

まずは「これまで」。情報科は平成15年、「情報 A(情報活用の実践力)」「情報B(情報の科学的な理解)」「情報C(情報社会に参画する態度)」の3科目でスタートしています。ここから1科目を選択履修するわけですが、「情報Aを選択する学校が88.6%と、かなり偏った傾向だった」と福原先生。

平成25年度からは「社会と情報」「情報の科学」という形で再編されましたが、こちらも「社会と情報」が82.5% と、同じような傾向に。これは、実質上の人員配置や指導技術の問題から、高度で専門性の高い内容を含む科目(情報B・C、情報の科学)の実施が難しいのが「現場」の現実だったためでしょう。

選択の偏りが強く、高度な内容は指導が難しかったこれまでの情報教育

しかし当時を思い出してみると、福原先生は「共通のゴールがなかった」と言います。「生徒に身につけさせる力、あるいはそれを測るものさしが明確でなかったように感じるのです。 例えば、生徒の入学時の情報リテラシーに差があるので指導内容が違うのは当然であるとか、情報 A・B・C はそれぞれ内容が異なるのだから入試に取り入れるのは無理だ、といった話が交わされていたのを覚えています」。

確かに、他教科のように「入試」という一定のゴールがあればその到達目標も設定しやすいですが、情報科はそうではなかったということでしょう。

足りない教員数、不完全な指導体制で対応できるのか

続いて「現状」。現在の「社会と情報」「情報の科学」が来年度から「情報Ⅰ」に統合され、すべての高校生が必履修する形となります。加えて、これを出題範囲とする共通テストへの導入により「かつてのようなばらつきがなく、同じ条件で入試を実施できる環境が整いました。当初はなかった『学びの確認の物差し』ができるのです」と、その意義を強調する福原先生。

「情報Ⅰ」への統合で、まなびの確認の「物差し」ができるようになった

一方で、やはり気になるのは「それをどう教えるか」でしょう。福原先生は、指導者の現状を次のように解説します。「情報科の教員数や充足率は地域によって差が激しく、臨時免許や免許外教科担任、あるいは複数教科を担当する形で教えておられるケースが多いです。文科省も各都道府県に『情報科の先生を適切に配置するように』と通達を出していますが、私たち教員自身にはどうすることもできない問題です」。

「情報Ⅰ」を指導できる教員の充足は喫緊の課題

こうした条件下において心配なのは、主に3点。「『情報 I』 の内容をしっかりと指導できるのか、 大学共通テストに対応して指導できるのか。また『情報Ⅱ』や、高度な指導を求めるデジタル部活動等の指導を行うことができるのか。それをどうすればいいのかというのが今日の話ですが、基本は私たち自身が新しい情報にアンテナを高く張り、準備するしかないと思っています」と述べ、腹をくくって学ぶことを呼びかけます。

現状の課題と対策

伝えるべき要望は、しっかり伝えていきたい

最後に「これから」。先生方個々の研鑽はもちろん大事ですが、同時に環境整備も欠かせません。福原先生は、今後に向けた展望や要望をこう指摘します。「教育委員会にしっかりサポートして欲しいということは、強くお願いしていきたいと思っています。例えば情報科教員の配置ですとか、研修の実施ですとか。後は、GIGA スクール構想に伴い情報科教員の業務負担(ICT活用、情報処理業務をすべて情報科教員がまかなうなど)が増加していますので、その軽減も必要でしょう。このあたりは、組織的に対応していただく必要があります」。

共通テストに向けては「情報Ⅰの内容をバランスよく出題して欲しい」「(情報Ⅰの)授業をしっかり受けた生徒が得点を取れる出題内容にして欲しい」「開始年は浪人生への配慮を行って欲しい」「試験時は、情報科のみの独立した受験時間を設けて欲しい」の4点だと福原先生。

浪人生への配慮と独立した受験時間については、最新情報でその実施が発表されましたが、他にも気になる点があると言います。「どれだけの大学が『共通テスト・情報』を採用するのかです。現時点では多くの大学が「保留」と回答しています。加えて、情報を専門とするような大学には、二次試験等で『情報Ⅱ』も採用して欲しいところです」。心から情報教育の発展を願っているからこその要望なのでしょう、福原先生の強い思いが感じられます。

教育委員会などによる組織的なサポートは欠かせない

「情報Ⅰ」という名の「箱」を、自分たちで開くしかない

共通テスト「情報」実施体制については、さまざまな学会や、福原先生の所属する「全国高等学校情報教育研究会」や「東京都高等学校情報教育研究会」「全国校長協会」からも強く要望が出ているそう。 改善すべき点はあるにせよ、全体的に見れば着々と準備は進んでおり「共通テストで『情報』を実施するあたって必要な、すべての条件が整ってきています。もはや、実施が覆ることはないでしょう」と言います。

続けて「これらをふまえて私が考えるのは、やはり『情報Ⅰ』スタートという名の『箱』を先生方がご自身で開き、準備するしかないということです」と語り、最後にその参考となりそうなアドバイスと情報をいくつか提供してくださいました。

ひとつ目は「年間の指導計画の作成からスタートする」、次に「それぞれの実習・研修の内容を考えてみる」ということ。その際「大学入学共通テストを少しだけ意識してみるといい」そう。「さらに、指導の根拠となる資料としては「高等学校学習指導要領解説・情報編」「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料(高等学校編・情報)」あたりは必読です。研修資料は、 文部科学省のホームページからも閲覧することができます。「高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材」は、先生方が最初に手を取られてみるにはちょうど良いのではないかと思います」。

共通テスト「情報」は、もう後戻りせず進んでいく

また、現場の先生方にとって特に心配なのは「情報Ⅰになって増える学習範囲を、従来と同じ2単位の授業時間で教えきれるのか」という点ではないでしょうか。さらには数学的、統計的なところまで情報で扱うということになると、 数学など他教科との連携も視野に入れて年間計画を立てることが欠かせません。

そこで、福原先生の所属する「東京都高等学校情報教育研究会」では、年間56時間の設定で各単元にどれだけの時間数が分配できるのかを研究したミニマムモデルを作成。他にも、おすすめの情報ソースとして情報処理学会の情報入試研究会同学会の公開MOOC教材入試問題検索サイト(河合塾)、弊社アシアル情報教育研究所研修サイトなどを紹介してくださいました。

さらに10月5日より、経済産業省が「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」をスタート。さまざまな企業が、学校のデジタル関連部活動を支援しようというものです。

これらをふまえ、講演の最後に福原先生からこのようなメッセージが。「私から言えるのは、『もう後戻りすることなく進んでいく』ということです。『情報』という教育が、高校を卒業した生徒の必須素養だという認識が定着しつつあります。先生方もご心配なことがたくさんあると思いますが、こうしたセミナーなどを通じて交流することで、ぜひ一緒に考え、解決していけたらいいなと思っています」。

いよいよ時流が動き出していると感じる、気持ちの奮い立つ講演となりました。

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