組織や学校種別をこえて、ともに次の10年を創る ~「プログラミング教育実践事例研究会2020夏」レポートVol.2~

村松教授の熱いメッセージを受け止めてさらに気持ちがたかぶったところで、後半は高等学校2校の教諭による実践事例発表です。1校目は、アシアルも支援している和歌山県「きのくにICT教育」を背景にプログラミング教育に取り組む、和歌山県立星林高等学校。テーマは「グループワークでプログラミング ~きのくにICT教育実践例の紹介~」です。昨年度から開始した同校の取り組みですが、実は失敗や反省点もいくつもあったそう。その経験を今年にどう活かしたのでしょうか。情報科の西川充伸教諭に語っていただきます。

「きのくにICT教育」の全県ビジョンのもと、Monaca活用

同校では、和歌山県全域で推進する「きのくにICT教育」に則る形で、プログラミング環境はアシアルのMonacaを利用。Monacaの特長「専用の機器やソフトを設置せず、クラウドベースで処理できること」を活用し、学校のPC(Windows)やiPad、生徒自宅のPC、個人のスマホ、これらがすべて連動するマルチデバイス体制を整えています。「学校でしかできない(家庭学習できない)」という障壁の排除は、プログラミング学習をより身近なものにするにおいて、非常に大きな要素でしょう。また、同校では、グループワークも実施していますが、ひとつのプログラムを複数人で作成できる「Monacaのグループ招待機能」も魅力だったようです。

同様に、きのくにICT教育の指導案に沿って、年20時間のプログラミング学習時間を確保。和歌山県では、原則としてすべての高校でこれに準拠した学習環境が整備されています。

和歌山県のプログラミング教育指導案。「きのくにICT教育」のWebサイトからダウンロードも可能

限られた時間内で、いかに効率的に進められるか

これをベースに同校でも、全20回の授業を設置。プログラムの3要素である「順次処理」「分岐処理」「繰り返し処理」をバランスよく押さえています。「この3つをやらないと『プログラミング学習をした』ということにはならないのかな」と西川教諭。ここは大事なポイントのようです。

和歌山県立星林高等学校 西川充伸教諭

ただ同時に「効率的に進めないと、この内容を網羅するのは難しいです」と注意を促します。現場でも、いくつかの工夫をこらしていました。

「1番の課題はキーボードです。スマホの普及で、生徒のタイピング能力は数年前と比べ格段に落ちています。4月の段階からちょっとずつ練習しておくのが大事。特にプログラミングにおいては、全角と半角が混在する場合があるので、このあたりがキモかと思います」。

レポートの作成にキーボード入力を用いるなど、意図的にタイピングの機会を増やすことも有効だと西川教諭。また、Web上にあるP検(パソコン検定試験)用のタイピング練習ツールも、数分で取り組めるためスキマ時間に練習できて便利だそう。意識したいのは、早さよりも正確さ。誤タイプを減らす指導に留意するのが良いようです。

星林高校におけるプログラミング学習の工夫

入力やデバッグに時間を取られることも問題です。そこで西川教諭は、実習課題のサンプルプログラムを先にファイルで配布してしまうことで対応。完成イメージもプリントで掲載し、不明点をネット検索する時間を節約するため、リファレンスもあらかじめ共有しました。

実習課題の例。サンプル、完成イメージが例示されている

失敗と反省が山積した初年度

こうした指導を経て、全20回のうち最後の5回をグループワークに充てます。しかし、このグループワークも、実施初年度にあたる昨年はうまくいかなかったと明かす西川教諭。取り組んだのは「5択クイズアプリ」の作成でしたが「プログラミングをしないメンバーが出てしまったのです。クイズを考えるだけとか。画像を用意するだけとか……」。さらに、プログラミング上の工夫より、「ユニークな画像を使う」といったコンテンツの工夫に目が行ってしまう生徒も少なくありませんでした。

星林高校の学習計画案。終盤の5回がグループワークに割り当てられている

昨年度のグループワーク中の様子。つい、アプリに使用するイラスト作成に夢中になってしまう生徒(右)

「プログラミングの授業としては不十分で、非常に残念な結果になってしまいました」と苦笑いする西川教諭ですが、生徒からの授業評価は意外にも(?)非常に高い結果に。「もっとICTで(社会に)貢献したい」「もっと自分にもできることがある」という声が多数聞かれました。純粋に一つの「授業」として、生徒たちは楽しめたようです。

失敗を糧にバージョンアップ

こうした反省をふまえて、今年度はグループワークをバージョンアップ。テーマは「タイマーアプリの作成」です。「プログラミングに意識が向くように、あらかじめ条件を提示しました」と西川教諭。具体的には「①基本的な10秒タイマー機能」「②運動、調理、制限、時間指定の各タイマー機能のうち、どれか一つ(または複数)を持たせる」「③便利なオリジナルタイマー機能」です。

また、Monacaの「プロジェクト招待機能」も利用しています。これは一つのプログラムをグループで共有しながら編集(制作)できる機能。これにより、プログラム作業にメンバー全員が関わりやすい環境を作りました。さらに、手持ちぶさたな生徒が出ないよう、グループの人数を4人から3人に減らしたほか、作業におけるメンバーの貢献度や、完成作品の対する生徒間の相互評価なども導入しました。

今年度のグループワークにおける改善点のまとめ

今年度のグループワークにおけるグランドルール(概要)

全5回のグループワークの流れは、1回目が企画と役割分担。2~4回目は制作。5回目が完成した作品の発表と相互評価です。他のグループの作品をそれぞれ体験し、4段階で評価します。

今年度のグループワークのようす。昨年度の課題が解消され、より主体的で実践的な学びに

生徒同士の評価は専門的な部分にまでは踏み込まず、「すごい」「ふつう」「おしい」といった印象・感覚で行いますが、教員の評価にはもっと専門性が必要です。しかし、教員自身がプログラミングの明確な客観指標を持てなければ評価もできません。実際には、どのような基準で査定すれば良いのでしょうか?

西川教諭は「レベル1:サンプルをほぼ利用しただけ」から「レベル4:大きな改編を伴うカスタマイズや新しい発想」といった4段階評価で、どれだけカスタイマイズや応用・発展性を取り入れたかで評価したと言います。

作品の評価手順。教員はより専門的な視点から評価する

限られた条件下でも、グループワークは実施したい

全体を振り返って「昨年度の反省を反映して、ずいぶん良くなった」と西川教諭。ポイントは「ふだんの実習(授業)形式をグループワークでも踏襲すること」だと言います。そのほうが、生徒たちもスムーズにグループワークに入れるからです。村松教授も指摘したように、課題は授業時数の不足。限られた時間の中で、いかに効率的に進めるかがカギだと言えそうです。それをふまえてなお西川教諭は、「やっぱりグループワークはやったほうがいいですね。生徒同士が『教え合う』環境が作れるからです」と強調します。

もちろん、次年度以降に向けての新たな課題も見えてきました。相互評価の後に改良の機会を設けるべきではないか。動作の確実性を評価するのか、動作が不十分でもチャレンジ性を評価するのか。今年度のタイマーの事例ように機能を絞ったワークにすることで、生徒の自由な発想を制限してしまうのではないか。ICTそのものへの意欲も育まねばならないのではないか……

取り組むべきことはたくさんありますが、それさえ楽しむようなフロンティアスピリットを持ちたいものです。西川教諭は「日本を情報で支えていくんだ、それができるのが教育なんだと信じている」と情熱をたぎらせます。プログラミング教育は始まったばかりで、だからこそ教える側も「自由な試行錯誤」ができるとも言えます。まさにいま私たちは、村松教授の言う「次の10年」のプログラミング教育のあり方を分かつ戸口に立っているのかもしれません。そんな気持ちを奮い立たせてくれる事例発表となりました。