「情報Ⅰ」を教える教員は何を学ぶべきか? 日本情報科教育学会 第11回フォーラムに弊社の岡本が登壇
2022年度から高等学校では新しい指導要領の元で「情報Ⅰ」が始まります。これに向けて、2019年には文部科学省より「情報Ⅰ」の教員研修用の教材が公開されました。
これを受けて、2019年12月21日(土)に日本大学文理学部で開催された日本情報科教育学会 第11回フォーラムでは『高等学校情報科「情報Ⅰ」における教員研修の内容・方法・教材について』をテーマとしたパネルディスカッションが行われました。
本パネルディスカッションに弊社の岡本が登壇をいたしました。当日は活発で有意義な議論が行われましたので、岡本の発表の内容やパネルディスカッション全体の様子をご紹介させていただきます。
従来のプログラミング学習環境が抱える課題とMonacaの利点
アシアルの岡本はパネルディスカッションの3番目に登壇し、高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修教材(全4章)のうち第3章の「コンピュータとプログラミング」について、弊社の活動や実際に行った教員研修からの所感をお話ししました。
岡本:プログラミングの学習者が最初につまずくのが開発環境の準備、維持です。また、学校や教育センターのパソコンに環境セットアップをしてしまうと、自宅での予習・復習ができなくなってしまいます。我々はこの課題を解決するためにMonacaというブラウザだけで動作するクラウドIDEを提供しています。
先日、Monacaを使って5時間程度の教員向けのプログラミング研修を行いました。プログラミングの環境構築に時間を取られないため、短い研修時間を有効に使うことができました。また、Monacaではプログラミング言語としてJavaScriptを採用しています。JavaScriptだと、画面の動きがある内容が実施できるため、プログラミングに慣れていない先生方にも楽しんでいただけました。また、動画教材を提供して自宅や学校で続きの学習を行ってもらいました。
分岐や繰り返し処理といったプログラミングの基礎を覚えることは大切ですが、同時に自身で作ったプログラミングによって、画像が表示されたり、動いたりといった分かりやすい成果はプログラミングの楽しさを感じてもらうために大切だと感じています。
2022年度の授業スタートまであと2年、時間も十分に残されている状況ではないので、怖がらずに徐々にでも初めて行くべきではないでしょうか。
ちなみに、現状、高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修教材の第3章についてはJavaScriptの学習項目としてグラフやWebAPIが省略されています。JavaScriptでのグラフ表示にはPlotly.jsライブラリが有望だと考えてます。またWebAPIは弊社で教育用に使い勝手の良いものを準備して公開する予定です。
「インフラ整備の研修も必要になる」天良 和男氏(東京学芸大学)
本パネルディスカッションの最初の発表者は東京学芸大学の天良 和男氏でした。
天良氏:情報Ⅰは必修で、その第3単元に「コンピュータとプログラミング」があります。高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修教材のプログラミング言語としては
- Python
- JavaScript
- Excel VBA
- ドリトル
- Swift
が想定されています。全国の教育委員会に配布する冊子の中では言語としてPythonを、JavaScript、Excel VBA、ドリトル、Swiftの4言語についてはPDFで研修資料が用意されます。
中学生の技術家庭での内容となる計測・制御で重要になる外部装置との接続ですが、これからのAIやIoTの時代では、外部の機器との接続が重要になってきます。これまで情報の先生が取り上げなかった計測・制御についても高等学校情報科「情報Ⅰ」の中でしっかりと取り上げていかなければなりません。
モデル化やシミュレーションでは、Pythonを使うと、グラフ描画でもモジュールを追加することで短いコードでプログラミングできます。
2022年度までの準備としては、教育用パソコンの環境復元が鍵になります。復元ソフトがインストールされている環境であれば、毎回ある時点の状態に戻せます。一方で復元ソフトがあるために新しいソフトのインストールが上手くいかないケースも出てきます。対応するために復元ソフトにおけるディスクイメージの配信や、修復無効モードなどの操作を教員ができないと発展性がありません。
教員研修の中では、プログラミング学習環境のインフラ整備のための研修も必要になるのではないでしょうか。
「データの活用を学ぶ」春日井 優氏(埼玉県立川越南高等学校)
2番目の発表者は埼玉県立川越南高等学校 情報科の春日井 優氏でした。
情報科教員採用のない県があったり、他教科の先生が臨時免許で教えている学校もあったりする前提の中、教員研修教材では教科書レベル以上の知識・技能が求められるというお話がありました。
春日井氏:教員研修教材第4章は「情報通信ネットワークとデータの活用」で、「情報通信ネットワークの仕組みと役割」「情報システムとデータの管理」「データの収集・整理・分析」の3つを一つの単元としています。従来型のコンピュータ同士のネットワークだけではなく、様々なものがつながるIoT時代の想定をしてもらおうという流れです。
データの取得・管理にはRDBを用いたもの、API経由で受け渡されるものなどさまざまあり、その表現形式や取り扱いを知ること。そして定量データの分析やテキストマイニングのようなに定性データの分析も求められます。
統計は世代によって授業の内容が異なっており、おおざっぱに言うと2019年時点における20代は統計分野の授業を受けておらず確率だけ学んでいます。若者が意外と統計になじんでいないということを踏まえて検証をしていこうと考えています。
データ活用については表計算ソフトやPython、R言語などが使えればよいのではないでしょうか。
「工業科の情報技術教育を参考に」高橋 等氏(静岡産業大学)
最後の発表者の静岡産業大学の高橋氏からは、自身で行った教員へのアンケートをもとにプレゼンテーションがありました。情報科の研修は県立・市立と国立・私立では研修主管が異なり、更に公立高校でも非常勤講師が研修対象外になるなどばらつきがあることを示しました。
高橋氏:アンケートの対象者は10人ほど。中には高専の先生もいたので、平均よりは技術に詳しい回答者の母集団となってます。
「情報Ⅰ」の指導に適したプログラミング言語、という設問ではJavaScript、VBA、C、Scratchの回答が多く、これから学びたい言語としてはPython、PHP、Ruby、Rが挙がりました。
指導に適した言語の選択条件としては、
- エディタなどの開発環境が揃っているか
- インターネットの接続がなくても動くか
が特に重視されていました。
また、生徒がプログラミング言語を学ぶにあたり、コンピュータに関するレディネス(学習条件や環境が整っているか)および、言語理系や数理理解といった基礎的なレディネスの欠如・ばらつきが予想されることが懸念されています。
実際に教員へ指導して分かったこととしては、JavaScriptはエラー通知やデバッグの機能弱いのが致命的である反面、ブラウザとエディタがあればどこでも実行できるメリットは感じています。
また、アルゴリズムとプログラムの関係を短期間の研修で理解させるのは難しいと感じました。1日間で全般的な十分な研修はできません。
高校のプログラミング教育先行事例としては、工業科の「情報技術基礎」が参考になるのではないかと考えました。プログラミング指導にそれなりの時間をかけていますし、情報技術検定の問題集もあります。
研修へ工業科の教員を派遣したり、工業高校の設備を活用したりできれば良いと思います。
まとめ
2022年に始まる高等学校情報科「情報Ⅰ」。その準備については教員研修用の教材が公開されたものの、指導する言語の選定、教員のスキル向上、教員自身の学習環境整備などなど、教育現場での課題は山積みだということが、各登壇者からの発表から浮き彫りになりました。
弊社では、2020年1月に「アシアル情報教育研究所」を設立し、情報教育の指導者のサポートに更に力をいれていく予定です。教員研修や学習環境整備、学習教材の準備などで、ご相談などございましたらお気軽にご連絡ください。