Monacaと超高速ScrumでDX人材育成

アシアル情報教育研究所・所長の岡本雄樹です。

Monacaを活用したDX人材育成に関する研究で博士号を取得されたNTTデータの酒瀬川さんにお話を伺ったので、ご紹介致します。

現在、酒瀬川さんは立教大学・経営学部で教鞭を執られており、ワークショップ演習という講義で大学生の育成にも携わっております。

今後、DX人材育成の知見をアシアル情報教育研究所主催の研究会でもお話し頂くことを確約頂きましたので、乞うご期待!

研究テーマは『知識創造を指向したProject Based Learningの構築』

岡本:酒瀬川さん、博士号、おめでとうございます。研究でMonacaを活用頂いたとのことですので、本日インタビューのお時間を頂きました。。

酒瀬川:NTTデータの社内研修でMonacaを4年間使ってきました。今は立教大学でも教鞭を執っております。今年度は、『ワークショップ演習』の『SDGsの目標達成のためにできることは?』と『優れたサービスを創造する(Creating high quality services)』でMonacaを使う予定です。

岡本:それでは、酒瀬川さんの研究のテーマについて改めて教えてください。

酒瀬川:私の研究テーマは『知識創造を指向したProject Based Learningの構築』です。

岡本:ちょっと難しそうですね。社内研修が研究フィールドということだったので「PBL(プロジェクトベースラーニング)で知識創造能力を向上させるための研究」ということですか?

酒瀬川:はい。昨今、企業でのDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が叫ばれていますが、そこでは知識創造を担う人材の育成が求められています。この、研究の鍵は「知識創造の測定方法」です。PBLでのチーム開発の実践を組織的知識創造理論視点から効果検証を行いました。

岡本:企業のDXを推進するDX人材育成方法について体型的に研究されたわけですね。是非論文だけでなく、一般向けのビジネス書としても出版して欲しいです。

酒瀬川:研究詳細については、論文や公聴会の発表資料で確認して欲しいですが、要点は一つ、超高速でスプリントを回すことです。

スプリントを回せ!ジェットコースターのように速く、そして何回も!

岡本:スプリントってなんでしたっけ???

井澤:開発サイクルのことです。アジャイル開発の手法の一つである「Scrum」では、短い開発サイクルを「スプリント」と呼びます。

岡本:なるほど!Monacaの開発チームからも「スプリント」という言葉は聞くので単語は知っていたのですが、そういうことなんですね。ということは、スプリントは元々、短くて高速なのでは?

酒瀬川:それを『超』高速で回します。通常の開発現場で行われるスプリントは短いと言っても1~4週間のサイクルですが、ここでは90~120分間で回します。

岡本:それは速いですね。ランニングで校庭一周するのとジェットコースターの回転速度ぐらい違いますね。

酒瀬川:この超高速スプリントが、知的創造力をドラスティックに引き出すのです。

岡本:超スパルタですね。

酒瀬川:ブラウザ上で開発しながらデバッガーアプリで実機確認がすぐにできるのでこれが実現できるのです。

岡本:Adobe XDなどのプロトタイピングツールじゃだめなんですか?

酒瀬川:UIを作りこむ上では良いのですが、UIの部分を作りこむのが最終ゴールではないので。あと、プロトタイピングツール自体の機能の習得をしなくてはならないため、別途ツールの研修を組む必要も出てきますね。

岡本:ちなみにAdobe XDの研修であれば、アシアル情報教育研究所では先生向けに無料で提供しています!

それはさておき、 MonacaもHTML x CSS x JavaScriptの知識が必要になりますよね。

酒瀬川:NTTデータでは新人研修でHTML x CSSとJavaScriptなどの一般的なテキストプログラミングの基礎は学んでいるので、問題はありませんでした。MonacaはWebの汎用的な技術で取り組めるのが良いですね。

岡本:なるほど、でも、最近はソースコードを書かないタイプの、「ローコード」や「ノーコード」の開発ツールも登場していますが、酒瀬川さんはどの様に評価されていますか?

酒瀬川:そのローコードやノーコードのツール独自の使い方や機能を学ぶ必要が出てしまいます。学習コストがかかるうえに、製品にロックインもされてしまいます。

岡本:学校の教育で使うときにも、ロックインは避けたいという意見を良くいただきます。HTMLxCSSは汎用技術なのでロックインはないですが、情報を調べながら短時間で作品を作っていくのは大変じゃないですか?

酒瀬川:そこはアシアルさんが教材をまとめていたり、サポートサイトやOnsen UIみたいなツールを提供されているので問題ありませんでした。調べながら作っていく、作って動作確認する、のサイクルが絶妙のバランスですすめられましたよ。

岡本:そこまでべた褒めされると、『やらせ』と思われそうで心配…

酒瀬川:受講者の声で私が意外に思ったのが、「楽しい」という声がたくさん上がったことです。企業内におけるプログラミング研修で、楽しいと言ってもらうのは結構少ないんです。退屈な進行になってしまうこともあるのですが、ジェットコースターのようにスプリントを回しながらプログラミングに向き合う研修が、刺激的で良かったのかもしれません。

岡本:ジェットコースターの遠心力で「プログラミングそのものの楽しさ」に到達できるわけですね。ちなみに、研修の間はスプリントを何回転させるのですか?

酒瀬川:1日4回、2日で8回転ですね。この研修は「スクラムを学ぶ研修」ではなく「スクラムで学ぶ研修」なので、ガンガン回します。

酒瀬川:アンケートで興味深かったのが、この研修を受けたことによって「ストレスが減った」とか「生きがいが見つかった」という声もありました。

岡本:この研修で何に目覚めてしまったんだろう…

酒瀬川:普段はお客様の要求に基づいた開発を行っているので、自分の作りたいものに向き合うことで、改めて、プログラミングの楽しさに目覚めたのかもしれません。猫に関するプログラムを凄い詳細に作りこんでいた人もいます。

経営学部での展開

岡本:そんなヤバい研究を、今は大学の経営学部の学部の講義で実施しているのですね。

酒瀬川:ヤバいかどうかは分かりませんが、昨年の後期から実施しています。企業研修で効果が立証できた手法が学校教育の現場でも有効なのかを検証したいと考えています。講義の模様に関する動画や講義資料なども、後日提供させていただきますね。

岡本:ありがとうございます。また、今年度は、私も講義の様子を実際に見学させていただきたいです。

酒瀬川:ぜひ。こちらこそ、よろしくお願いいたします。アプリ開発のプロフェッショナルからの指摘があると学生にも刺激になると思いますので、アシアルの皆様からもフィードバック頂ければ幸いです。

岡本:素晴らしい取り組みだと思いました。高校の情報教育にも、この、超高速Scrumを用いたDX人材育成の手法は活かせそうです。特に専門高校では、実践的な教育を行うための実習時間もとれるので取り組みやすいと思います。

汎用的な技術であるHTML x CSS x JavaScriptを基礎として学んだうえで、課題解決型の活動を高速Scrumで回しながら知識創造を促進するような取り組みが実現できるのではないかと思いました。現場の先生方にもこのような実践例をお知らせしたいので、近いうちに弊研究所のプログラミング教育実践事例研究会などにもご登壇お願いできますか?

酒瀬川:ぜひ、やりましょう。

岡本:本日はありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。

酒瀬川泰孝 先生の博士論文はこちらで読めます!

JAIST Repository: 知識創造を指向したProject Based Learningの構築-ITソリューション企業A社における試行と組織的知識創造理論視点からの効果検証-

授業を一緒に担当されている西原文乃先生からのコメント

後日、西原文乃先生より立教大学・経営学部の授業についてお話(コメント)頂きました。

立教経営では、1年次からプロジェクトベースドラーニングをいろいろな科目で経験していますが、基本的に、ビジネスアイディアやビジネスプランを提案するものです。

酒瀬川様と始めたスクラムベースドラーニングでは、Monacaを使って、実際に動作するモックアップを制作する点で、より実践的です。プログラミングに興味があるけれども始め方が分からない、という学生に対して、半年間でプログラミングの基礎を学べる点で、学生のニーズにマッチしていると思います。

また、酒瀬川様が日ごろ学生に伝えている「文理統合」のような話にも少し触れて頂けると、経営学部の数ある講座の中でも特色のある内容だという点がより一層はっきりとすると思います。

参考:シラバス情報

ワークショップ演習B:SDGsの目標達成のためにできることは?

ワークショップ演習F:優れたサービスを創造する