情報科オンラインセミナー『新学習指導要領スタート直前! ―情報Ⅰ指導のポイントを考える―』セミナーレポートVol.4

3年目の「情報Ⅰ」型授業からみる「情報Ⅰ」の授業 /パネルディスカッション

最後は、講演いただいた3名の先生方をパネリストに、信州大学名誉教授・東原義訓先生をコーディネーターに迎えてのパネルディスカッション。参加者から寄せられた質問を素材にしつつ、話題をさらに掘り下げます。目前に迫った情報Ⅰスタートに向けて、私たちはどんな心構えで、そしてどう取り組んでいくべきでしょうか。実況形式でお伝えします。

「データ活用」を過度に恐れる必要はない

東原:まずは佐藤先生。「統計データを生徒に丸渡ししても、どのような視点でグラフ作成すればいいか分からず止まってしまう」というお悩みが届いています。

佐藤:e-Statを使う前段階で、私が用意したデータを使ってグラフにし、全員分を比較する授業を実施しています。誰がどのような観点でそれを作ったのかを共有し、新たな視点を得るためです。これを踏まえて、e-Statを使用する時にはペアワークにしています。異なる視点で協力しつつ、自分なりの視点を持てれば十分だという考えです。

東原:データ解析では、ある仮説や目的があって、それを解明するために必要なデータを集める発想が基本です。しかしこのケースはまずデータありきで、そこから分析してみようという流れ。この場合、どうしたらよいでしょうか。

蓮池:データも結果も従前からよく知られている(答えが分かっている)テーマを使って、実際に分析してみるといいと思います。そうしてデータ分析のやり方が分かってくれば、生徒や学生も自分でやり始めると思うんですよね。もしそこで今までにない発見があれば、もう万々歳かなと。

東原:なるほど。先ほどの蓮池先生のご講演で「データの質」が大事だというお話がありましたが、「高校の授業でそこまで意識させることができるか不安だ」という声が寄せられています。

蓮池: 例えばデータの欠損があるだけでも「質が悪い」と言えますよね。あるいは、散布図を書いてみたら明らかに他のデータとは違う点が一個だけあるとか。「これって何なのかな?」という疑問を持つだけでも、データの質を検証することは十分始められますよ。

佐藤:実は私は、授業でデータの質の指導を意識していなかったんです。ただ、生徒たち自身にデータを作らせたことがありました。「身の周りのバーコードとその商品名、金額をExcelに入力しなさい」という内容です。そうしたらもう、バーコードのデータがでたらめだったり、金額の桁が違っていたり、もうデータがバラバラで(笑)。「これでは分析できない」と生徒たちも気付いたようで、結果論ながら自然と「データの質」の重要性を理解できました。

東原:「分析結果が解釈不能のものばかりにならないか不安」という声も届いています。

佐藤:私は、最初から生徒に「うまくいかない可能性も高い」と言ってしまいます。データとはそういうものだということですね。

東京都立立川高等学校 佐藤義弘教諭

プログラミング学習は、言語選択が一つのポイントか

東原:では今度は、プログラミングのお話を。鈴木先生、届いたご質問からいくつかピックアップしてお答えいただいてもよろしいですか?

鈴木:「Pythonを使ったアプリ開発は考えているか」とのことですが、これについては考えていません。HTMLと組み合わせるのはJavaScriptのほうが楽だと思います。ただ、京都私学の情報科研究会でアンケートを取ってみたところ、回答があった12校中10校がPython、残り2校がJavaScriptとScratchでした。また、PythonとJavaScriptを両方やる学校が半数以上でした。両方を扱う時間は必要なんだろうなとは思いますが、アプリ開発に関しては JavaScriptを考えています。

次に「アプリ開発を個人でやるかグループでやるか」というご質問に対して。これは基本的に個人です。グループだとどうしても得意な子に頼りがちで、成績評価がしにくくなるからです。ただ、問題解決と組み合わせる場合で、目的がアプリを作ることでなければ、グループもありだと思います。本校の場合、1年生(情報Ⅰ)では個人作業、2・3年の選択科目ではグループにするなど、2段階構えにすることも考えています。

東原:例えばグループで一つのアプリを作らなくても、隣の生徒の作品に対して意見交換するだけでも、グループ学習と言えるのではないでしょうか?

鈴木:相互レビューは重要です。ただ、こちらが指示しなくても、ある程度まで課題制作が進むと、自発的にチェックし合うようになってきます。一方で、プログラミングは生徒同士で解決できないことも多いので、そこは課題ですね 。

東原:では次の質問です。「学校で採用されている言語がVBA。共通テストを考えると、Pythonで指導したほうが良いと聞くがどうか」。

佐藤:学習指導要領には「外部のプログラムとの連携」という文言があります。例えば APIが想定できますが、こういうのはVBAにはできませんのでちょっと苦しいかなと。最初の数年はVBAで問題ないと思いますが、今後を考えるとPythonやJavaScriptに移っていくほうがいいと思います。

東原:PythonやJavaScriptのメリットやデメリットはありますか?

佐藤:大がかりな環境を作らなくても大丈夫なのはいいですよね。PythonだとGoogleのサービスやJupyter Notebookを使えば、ブラウザ内で動作する環境が作れます。ただ、それを突き詰めていくとJavaScriptになるんですよね。何も用意しなくてもテキストエディタとブラウザさえあれば動きますから。

鈴木:VBA に関しては、Excelの使用が前提になっているのがネックで、Chromebookやスマホではやりにくいとか、生徒たちの自宅にパソコンがない場合とか、環境の問題が大きいかなと。Microsoftも今後はVBAを終息させていく方向ですし、ちょっと難しいと思いますね。

佐藤:Pythonで注意したいのは、生徒が自分で環境をインストールする場合ですね。管理者権限があればいいんですが、制限ユーザー(生徒)がやると意外と難しい。

東原:では蓮池先生、今後のデジタル社会で活躍する人材開発という観点から、プログラミング学習に関して何かご意見はありますか。

蓮池:必ずしもPythonでなくても良いと思いますが、Pythonの場合、研究者レベルのプログラムがWeb 上にフリーでパッケージングされているものが多いです。したがって、検索能力さえあれば学生でも最先端の技術を使うことができるんですよね。そういうライブラリが充実しているのはPythonの強みだと思います。

東原:教えるにあたり「教員がすべて分かっていないといけない」時代ではないのでしょうね。そういう意味では、プログラミング指導のご経験があまりない先生方も、勇気を持ってPythonやJavaScriptに飛び込んでみても良いのかもしれません。

早稲田大学創造理工学部 経営システム工学科 蓮池隆教授

数学・探究との連携が今後の課題

東原:数学や探究との連携に関するご質問も多いようですね。

佐藤:数学については、数学の先生に「いつ『データの処理』の単元を教えるか」を聞いておけば大丈夫だと思います。今は高校もシラバス公開する環境ですから、私は数学の先生に直接聞くこともなく、勝手に年間指導計画を見て決めていますよ(笑)。ただ、数学で理論をしっかり学んでもらい、後から情報Ⅰでやるほうがいいでしょう。先に情報科でやってしまうと、生徒が「コンピューターを使えばすぐできる」と知ってしまい、理解に繋がりませんから。

鈴木:数学の「データの分析」でExcelを使うケースもありますので、逆に情報科でExcelの使い方は教えておいて、原理は数学で習ってね、という流れがいいのではないかと思います。

東原:問題解決・探究との連携はどうでしょうか?

鈴木:なかなかその時間が取れないというのが正直なところです。他教科の探究学習の情報はある程度仕入つつ「今(情報科で)学んでいる内容は、この教科でも使うよ」といったことだけは伝え、実際にやるかどうかは各教科に委ねるのが現状では精一杯です。

佐藤:本校の場合、探究の発表会やレポート作成が多数ありますが、例えば「A 4×1枚にまとめる」などフォーマットが決まっているものについては、先に情報科で使い方を指導してしまうということはよくやります。 これも「情報のデザイン」の一部です。

同志社中学校・高等学校 鈴木潤教諭

情報科にも、新しい学びの時代が来ている

東原:ありがとうございます。残念ながらお時間のようですので、最後にお一人ずつメッセージをいただけますか。

佐藤:講演でも申し上げたように、私はいつも「この授業でいいのかな」と不安に思いながら、生徒の反応に助けられています。ですから、生徒の意見や反応からよく学ばせてもらってください。

蓮池:とにかくまずは「データに触れる」ことから始めて欲しいと思います。良い分析結果も悪い分析結果も、すべて結果・経験の一つです。まずは高校でデータに触れ、慣れておくことが将来的にも役立つのかなと思います。

鈴木:佐藤先生と同じで、やはり生徒の感触を見ながら進めていくこと「しかできない」と思うんですよね。生徒が面白いと思うことを探りながらやるからこそ、身に付くのではないでしょうか。たとえ少々失敗しても、試行錯誤している教員の様子が生徒の学びにもなると信じてやっています。

東原:では私からも、印象に残ったことを三つ。一つは「学習指導要領の順序に従うのが合理的」だということ。これは新鮮でした。次に、いわゆる「講義型」ではなく、学習者が活動する時間のほうがずっと多い実践事例だったこと。そして「問題を解く」ことではなく、本来の「問題を解決する」授業が大事なんだなということです。そんなメッセージを受け取りました。みなさん、ありがとうございました。

信州大学教育学部 東原義訓名誉教授