高等学校「情報科」セミナーレポート:情報Ⅰにおける「評価規準の作成」及び「評価の実施」

学習指導要領の改訂に伴い、2022年度、いよいよ始まる「情報Ⅰ」。期待と不安が交錯する中で、これから現場で情報教育を実践していくにあたり欠かせないのが「評価」。新しい情報科の学びを、どのような観点で成績付けしていけば良いのでしょうか。京都精華大学メディア表現学部教授で、アシアル情報教育研究所の顧問にもご就任いただいた、鹿野利春先生にご解説いただきます。

京都精華大学メディア表現学部 教授/アシアル情報教育研究所 顧問 鹿野利春先生

学習指導要領の実現度を測るのが「評価」

本日は、情報科の評価規準の作成について。どう子どもたちを評価するのか、どんな規準を作るのかというお話です。

まず根本的な認識として、評価の元となるのは学習指導要領であることをご理解ください。どのくらい学習指導要領の内容が実現できたのかが「評価規準」のもとになります。その前提において、文部科学省は学習評価に対してこのような考えを示しています。その評価が「教師の指導改善」「生徒の学習改善」に繋がること、そしてこれまで慣行的に行われてきた評価方法でも、必要性・妥当性が認められないなら見直していくことです。

そして今回の新学習指導要領では、教育目標の再整理を行っています。例えば何を理解しているか、何ができるかという「知識・技能」、それらをどう使うかという「思考力・判断力・表現力等」、それから「学びに向かう力・人間性等」の三本柱ですね。目標が三つであるならば、当然ながら評価もこの三つに対して行う必要があるということです。

三本柱に沿って、観点も三つに整理

例えば試験の成績だけ見て、「60点だからもっと頑張ろうね」と評価したところで、子どもたちは何を頑張ればいいか分かりません。100m走をさせて、早いね・遅いねだけではダメですよね。学力も同じで、その主たるものをこの三つの柱で観点を整理しようという考え方なんです。

まず「知識・技能」「思考・判断・表現」。これはペーパーテストや実技で評価しやすい要素ですし、もちろん評定にも反映させます。ただ、「学びに向かう力、人間性等」は注意が必要です。例えば「感性」「思いやり」を一般的に評価するのは難しいでしょう。そのためこれは「個人内評価」として扱い、評定には反映させません。

一方で「主体的に学習に取り組む態度 」は、普段の姿勢から見て取れるはず。特に今回から、二つの要素を見ることになりました。従来と同じ「粘り強い取り組みを行おうとする側面」に、「自らの学習を調整しようとする側面」が加わったのです。もし粘り強く頑張ってもうまくいかないのなら、やり方を変える必要がありますよね? そこも評価の対象になります。粘り強さは高評価でも、調整力に課題があれば「努力を要する」という評価になるわけです。ここは要注意ですね。

目標に示された文言の「語尾」を変えれば、評価規準になる

さて、こうした評価を使って子どもたちの能力を伸ばしていくわけですが、学習指導要領は具体的に到達目標を示しています。例えば情報Ⅰの「(1)情報社会の問題解決」を見てみましょう(下図)。この(ア)(イ)(ウ)がそれに当たります。この目標に準拠して、指導し、評価していくということです。

では具体的にどう評価するかですが、考え方は簡単です。(ア)(イ)(ウ)それぞれの目標について、語尾を変えれば評価規準にすることができます。例えば「理解する」なら「理解している」、「身に付ける」なら「身に付けている」といった感じですね。「主体的に取り組む態度」については「○○しようとしている」などとします。

授業とは、評価のための情報収集の場

繰り返しになりますが、評価において最も大事なのは目標です。したがって、観点別にこの目標をしっかり立てることが欠かせません。逆に目標さえ立てられれば、評価規準はほぼ機械的に作ることができます。語尾を変えるだけでいいわけですからね。

評価規準を作ったら、今度は実際の授業設計、すなわち「指導と評価の計画」の作成です。「評価」という視点で見れば、授業は「評価情報を収集する場」。そしてその情報に基づいて次の指導をするという流れ。つまり最初に申し上げた、評価を通して「教師の指導改善」「生徒の学習改善」を行っていくということなんです。

このときの情報収集は、ICT の使用も検討してください。例えば生徒個人が自己評価をしたとき、生徒が40人いれば 40通りの評価が出てきます。仮に40人が40人を相互評価しようものなら、もう膨大な数の評価(情報)が出てきます。これをアナログで整理するのは非現実的です。

あとは、観点ごとの総括。最終的な評定に持っていかなければいけませんが、これは学習指導要領に沿って単元ごとに行っていただければ大丈夫です。

年間指導計画は、「指導と評価の計画」を意識して作るべし

この流れについて、もう少し細かく見てみましょう。まず「1.目標の作成」から「2.評価規準の作成」です。学習指導要領を見ますと、これがかなり長い文章で書いてあるんですね。そこで、このように目標を分割してください(下図)。目標を評価に持っていくために、シンプルな形にするということです。

それを作ったら次は「指導と評価の計画」ですが、まずその単元を何時間でやるのかを決める必要があります。実はここに前提条件があるので注意してください。年間の指導計画を立てる際に、「指導と評価の計画」の作成をある程度意識して割り振ることです。実際に単元の計画を立てるときには、その時間数に小単元を割り振ってください。授業時間数 は年間を見通して決めるということですね。

今度はその割り振りに対し、具体的にどの活動をどんな狙いで行うのかを考えます。例えばその学習活動で何を評価するのか、何を使って評価するのか、評価記録として残すのか残さないのか、といった要素です。

仮に「既存の知識で情報社会の問題を考え表現することを通して、問題を発見、解決するために何か必要かを考えることができるようにする」という目標を評価するとしましょう。そこで「この単元では思考力と態度を評価しよう」「特に重点的には態度を見よう」といった計画を立てます。そうすると、思考力を見る手段として発表をさせてみようとか、態度ならワークシートを作らせてみようとか、「手段」が見えてくるはずです。

【知識・技能の評価】授業内に、その力を用いる場面の設定を

次は実際の授業実施です。例えばその授業で「知識・技能」を評価しようとなったとき、技術的な知識はペーパーテストで判断できますよね。しかし重要な概念の理解になると、ペーパーでは難しいかもしれません。物理に例えると重力の概念ですとか。したがって、授業内で実際に知識・技能を用いる場面の設定が必要になると思います。文章や式、グラフで説明できるかなどで見ていくことになるでしょう。

【思考・判断・表現の評価】授業設計が重要な意味を持つ

続いて「思考・判断・表現」はどのように評価すれば良いでしょうか。そもそも「思考・判断・表現」とは、「知識・技能」を使って何らかの課題解決をするときに必要な力ですから、多様な学習活動が想定できます。ペーパーテストのほか、論述やレポート、発表、グループ討論、作品の制作や表現などが考えられるでしょう。そういう場面を効果的に授業の中で設定することで、初めて評価が可能になるわけです。

ですから「思考・判断・表現」の評価は、授業設計が非常に重要な意味を持ってきます。確かに「この1時間の授業で、あなたの思考力はこれだけ伸びましたよ」とはなかなか言えないでしょう。しかし、単元の最初と最後で生徒の変容を比べてみると、1回の授業では見えない総合的な評価はできるはずです。

【態度の評価】一定期間を通じて、プロセスを見る

最後に、「主体的に学習に取り組む態度」の評価です。「態度」なわけですから、知識・技能や思考・判断・表現の習得プロセスから評価することになります。そして「プロセス」ですから、ある程度長い活動の中で見ていくしかないですね。

具体的には、ノートやレポートの記述でしょうか。 授業中の発言や意欲などから態度を見ることも可能ですが、単に積極的な発言など、性格や行動面を評価するものではないことには注意が必要です。例えば普段から活発で、授業の内容を理解していてもいなくても、とにかく発言したがる子もいますよね。果たしてそれが評価すべき「態度」と言えるのかは疑問です。

みなさん、生徒の行動観察はいつも行っておられると思いますが、40人(1クラス)の生徒の行動を1度に観察することはできません。特に目立った子ばかり追いかけてしまっては、公平な評価ができませんから、そこにも注意が必要ですね。

生徒による自己評価を取り入れるのも有効ですが、単純に「良かった」「悪かった」の評価をさせてもあまり意味はないでしょう。自分がどうなっていればいいのか、自分の現在地はどこなのか、 そういう評価が必要であることを生徒たちに周知するのが重要です。例えばルーブリックのようなものを事前に作成して、共有しておくのも良いでしょう。彼らが学習を進めるための“地図”になります。これで自分の立ち位置を客観理解できれば、あとは自分で伸びていくことができるはずですよ。生徒が本当に主体的に学習に取り組むとき、先生にできることってあまりないんですよね。

他にも、一定期間を通じたポートフォリオ的な評価で、態度の変容を見ることも考えられます。いろんな評価情報を集めておき、これを見直す取り組みが、これからの評価には必要です。

A・B・Cの3段階評価を基本に、各学校で総括のルールを決めておく

こうして授業を実施したら、いよいよ評価の総括です。例えばこのように(下図)ABCの3段階評価で、「態度」の項目は B とか A とか、総合してAとか評価するわけですね。これをどう判断するかご説明します。

あくまで一例ですが、ABCを数値化してその合計や平均値を求めるとか、ABCの数のパターンによりあらかじめ総括された評価を決めておくとか、最初はできなくても後でできるようになっているなら、結果としての成長を重視して後半の評価を重視するとか、さまざまな方法があります。これらを組み合わせるのもいいですし、各学校の状況に応じて工夫・判断してもらえれば良いと思います。

何を評価したいのか事前に決めて、ワークシートを作る

ところで、評価ツールの一つとして挙げられるワークシートですが、こちらの見本(下図)をご覧ください。

これですと、例えば「欠損値と外れ値をどう処理したか」とその理由、「相関係数」「相関関係」であれば、知識・技能を評価しようとしているわけです。そして「この結果からわかること・自分の解釈」では、思考・判断・表現を評価する狙いがあります。つまりワークシートは、それぞれの回答から観点別に何を評価したいのか事前に決めて、バランスよく評価できているかを考えながら作るのが大事だということです。

ICTを活用して、こまめな評価確認を

先ほど、評価情報の収集やとりまとめにはICTを活用してほしいと申しましたが、こちらは、学習クラウドを利用した小テストの例です(下図)。もし知識を評価したいのであれば、このようなツールの利用も考えられます。

ではこれをいつやるかですが、一つ考えられるのはその日の授業の最後。生徒全員が正答できるようなら、その日の授業はうまくいったと判断できます。あまり結果が芳しくないのであれば、宿題を出すとか、あるいは次回の授業でもう一度やるとか。最初にも申しましたように、「教師の指導改善」も評価の重要な目的ですし、こういうことをきめ細かくやっていくのが大切で 、ICT はその強い力になると思います。

もう一つ、これは同じく学習クラウドを用いた振り返りの例ですね(下図)。

このように「学んだことや気付いたことは何ですか?」「今後どのように取り組んでいきたいですか?」などのリフレクションを毎時蓄積していけば、「学習活動の調整をしようとしているか」を見取ることもできるはずです。

観点別の指導と評価は、もはや「必須」

最後にまとめです。生徒の資質・能力を伸ばすためには、観点別の指導と評価が大切であることがお分かりいただけたと思います。いえ、「大切」と言うより「必須」ですよね。そうしなければ、付けるべき力がどのくらい付いたのか分からないですし、分からなければ指導のしようがないんですよ。観点別は面倒に感じられるかもしれませんが、私は至極真っ当な考え方だと思います。

その観点別評価を行うには「指導と評価の計画」の作成が必要です。今までは学習内容を中心に見ていましたが、生徒の資質・能力を伸ばすのが目標なわけですから、学習内容もそのための手段であると考えるべきです。ですから、「目標」を立てる、その目標に準拠した「評価規準」を作る、それを「指導と評価の計画」に落とし込む…… という流れになるわけです。

目標の設定が最も重要だというのは先ほども申しましたが、これには学校個別の目標や、特にその学校が重視している資質・能力も入ってくるでしょう。例えば情報科であれば数学Ⅰと連携して進めることが想定されていますから、その目標設定は数学と融合したとものにするのか、あるいは別に見るのかといった判断も求められます。宿題を学習用のクラウドなどで管理しているのであれば、授業外の要素も評価の場となるでしょう。

とにかく、新しい指導要領では3観点に基づいて資質能力を伸ばしていく、そのためには それに準拠して評価し、指導する。そういうサイクルが必要です。

 

 

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【高等学校「情報科」セミナー】情報Ⅰにおける「評価規準の作成」及び「評価の実施」(アーカイブ動画)