情報科オンラインセミナー『新学習指導要領スタート直前! ―情報Ⅰ指導のポイントを考える―』セミナーレポート Vol.1
3年目の「情報Ⅰ」型授業からみる「情報Ⅰ」の授業 /東京都立立川高等学校 指導教諭 佐藤義弘先生
新学習指導要領と共に、ついに2022年4月からそのスタートを切る「情報Ⅰ」。プログラミング、データ活用、情報デザインなど、かなり踏み込んだ学びが設定され、いよいよ情報教育の新時代が幕を開けます。一方で、その指導法をめぐっては不安を抱えていらっしゃる先生方も少なくないでしょう。そこで本セミナーでは、先んじて情報技術の教育に取り組んできたパイオニアたちにご登壇いただき、その経験・知見を共有! 情報Ⅰにおける授業づくりを共に考えます。
情報Ⅰ“みたいな”授業をやってみたら、こうなった
トップバッターは、東京都立立川高校の佐藤義弘先生。2003年、情報科が新教科として誕生した「情報科元年」から専任教諭として活躍されてきました。今回の新学習指導要領の設計にも協力者として名を連ねる、情報教育界の重鎮です。
そんな佐藤先生が2019年度から3年にわたって取り組んできたのが、情報Ⅰ“型”の授業。情報Ⅰ導入を見越し、それに模した授業を先行実施したのです。「情報Ⅰ“みたいな”授業をやってみた結果や、それをふまえたより良い授業づくりのヒントをお伝えできれば」との言葉に、否応なく期待が高まります。
「情報の科学」をベースに、情報デザインとデータ活用を加える
情報Ⅰ“型”とは「2021年度までの既存科目だった『情報の科学』をベースに、情報デザインとデータ活用の要素を加えたものだとお考えください」と佐藤先生。これを新学習指導要領で示された情報Ⅰの授業順序に沿って展開し、年間の授業計画は、東京都高等学校情報教育研究会(都高情研)が示したミニマムプランに準拠しました。
では、実際にどのような順序になっているのでしょうか。情報Ⅰは4つの項目で構成されていますが、1つ目が「情報社会の問題解決」。これに相当する内容を、1学期の4~5月に設定しました。情報Ⅰでは、実社会を想定した問題解決を起点とする授業づくりが基本。生徒たちが今後の授業に抵抗なく入っていくためにも、最初に「情報社会の問題解決」を持ってくるのは理に適った構成と言えそうです。
知識は重要だが、実体験を通じて学ばせることがポイント
ここで、最初に実施したのがレディネステスト。生徒たちの情報リテラシーは、出身中学によって大きく差があるためで、中学技術科の試験問題を用いて生徒たちの現状把握に当たりました。
それをふまえて授業では、1コマのうち1/3程度を説明の時間に、残りは生徒が自分で考えたり、意見交換したり、発表したりなど、アクティビティがある授業構成としました。佐藤先生は「知識はもちろん必要ですが、知識は使わなければ定着しません。中にはスキルに長けた生徒も一定数いますから、こうした構成にすることで「生徒間に教え合い・学び合いが発生する」と言います。
探究との連携やGIGA端末の利用促進にも効果
さらに「探究学習とのつながりを作るのにも役立つ」と佐藤先生。
指導要領の改訂により、情報Ⅰと同じ2022年度から「総合的な探究の時間」もスタートするのは周知のとおり。「探究がらみで言うと、本校はSSHにも指定されています。その課題研究では、大量のレポートやグラフ作成、プレゼン発表が必要です。そこで必要なスキル修得は情報科の授業の中に収めてしまうのが効率的だという判断です」(佐藤先生)。生徒へのアンケートでも、「必須と言うほどではないが、役には立つ」と感じている生徒が多いことが分かりました。新指導要領では、情報科を他教科と連携させて学ぶことが推奨されていますが、これもその一環と言えるでしょう。
加えて“GIGA端末”の活用促進も考えられるそうです。例えば、パソコン室に設置された端末と併用すれば、1人2画面での利用も可能。1台は説明を表示しつつ、もう1台で実習をするといった運用が想定されます。
「情報デザイン」は実習を通して学ぶべし
次に学ぶのは「コミュニケーションと情報デザイン」。1学期の後半から、2学期明けくらいまでの間に実施しました。
ここで取り入れたのは「ピンポイント学校紹介」という実習。学校のいいところを1つ取り上げ、紹介するwebページ制作にチャレンジするものです。手順は、①企画→②スライド制作→③ポスターセッション→④セッションで得た意見を反映してwebページ制作→⑤相互評価という流れです。「この小さな中でPDCAが1回転するようにしています。特に③→④の流れの中には問題解決の要素も入ってきますし、相互評価によって情報伝達のクオリティの良し悪しを理解する機会にもなります」。
続けて、問題解決と同様、情報デザインも「実習を通して学ぶことが重要だ」と言う佐藤先生。「『情報デザインは何を教えたらいいか分からない』という声もよく聞きます。しかし、この授業におけるポスターとwebページで考えてみてください。メディアによって『伝え方』はガラっと変わりますよね。そういうことに気付かせてあげるといいと思います」。理論を学ぶことも必要ですが、それ一辺倒にならないように気を付けたいところです。
プログラミングは履修時間が足りない傾向。夏休みの活用を
3つ目が「コンピュータとプログラミング」。特にプログラミングは学習に時間がかかるため、比較的しっかり時間を取りやすい2学期にこれを持ってきました。
ただ、それでも課題感はあるそうで「プログラミングは情報Ⅰの目玉の1つですが、総単元のうちの1/12に過ぎません。ここでプログラミングにたっぷり時間を取り、ゼロベースで成果物を作れるところまで持っていくのは難しいというのが正直な印象です」と語ります。
そんな中で行ったのは、夏休みの課題として事前学習しておくこと。e-ラーニングのプログラミング学習サイト「プログル情報」「Progate」を活用しました。時間が足りない部分は、ここで補うのがコツのようです。
数学Ⅰとの連携を意識。Excelは別途「使い方」の指導が必要か
締めくくりは「情報通信ネットワークとデータの活用」。3学期に実施します。
web統計ソフト「js-STAR」と統計局の「e-stat」を活用して、何らかのデータからグラフを作り、解説ポスターを作成する流れです。
ここでポイントとなるのが「データの活用」における生徒たちのExcelスキル不足。そこでExcelの基礎的な使い方を学ぶ時間を設定しました。WordやPowerPointなど、他のオフィスソフトは「使い方を学ぶ」時間は設けず、授業の目的に応じて「使いながら覚える」スタンスを取っていますが、さすがにExcelだけはそうもいかないそうです。
また、ここでも他教科との連携が意識されていると言う佐藤先生。「3学期にこれを持ってきたのには、ちょうどこの時期に数学Ⅰでも『データの分析』を学ぶから」と明かします。情報Ⅰはとりわけ数学Ⅰとの連携が重要だとされており、数学科と協働しながら授業計画を立てることも大事だと言えるでしょう。
授業づくりは、試行錯誤しつつ「生徒から学ぶ」意識を
こうして情報Ⅰ“型”の授業を進めてみた佐藤先生。実際にリリースされた情報Ⅰの教科書に照らして比較してみたところ「おおむね網羅できている」と感じることができました。
「指導要領では、各学習項目について『指導する』『考えられる』という2種類の文言が使い分けられています。このうち『考えられる』で表記された内容は、比較的難易度の高い学習です。この『考えられる』と表記された項目は省略したのが、今回の情報Ⅰ“型”授業だったと言えます」。
また、これから情報Ⅰの授業をスタートさせていくにあたって強く感じるのは、「指導要領で示された学習順序は正しい」ということだそう。特に問題解決から始めるのは非常に重要だと分析します。
最後に「より良い情報Ⅰ」を実践していくために、佐藤先生はこんなアドバイスを送ります。「毎回、授業の目標を生徒に明示して予定通り進めることと、授業の振り返りを行うことでしょうか。Microsoft Formsなどを活用して生徒からアンケートを取り、軌道修正していくのです。こうして今みなさんの前で話をさせてもらっていますが、私も『このやり方でいいのかな?』という不安や反省はいつもあります。生徒に『教えてもらう』姿勢を忘れないでください」。
確かに、情報Ⅰはこれから始まる教科。誰も正解など持っていません。試行錯誤を繰り返しながら生徒と共に教員も学んでいけばいい、そんな気持ちで構えておきたいものです。