オンラインで変わるか、これからのプログラミング教育 ~「プログラミング教育実践事例研究会2020冬」レポートVol.1~
新型コロナウイルスの影響もあり、あらゆる現場で急速にオンライン化が進んだ2020年の教育界。おそらくコロナ終息後も「学びのオンライン化」の流れは止まることなく、アフターコロナのニューノーマルになっていくことでしょう。
奇しくも時を同じくして、2020年度の小学校、2021年度には中学校、そして2022年度からは高校と、プログラミングの必履修化がスタートしていきます。では、プログラミング教育は、従来の対面式とオンライン式で、授業にどのような違いが出てくるのでしょうか。どのような可能性が秘められているでしょうか。
アシアル情報教育研究所では12月12日(土)、「プログラミング教育実践事例研究会」をオンラインで開催。現場でプログラミング教育のオンライン化に取り組まれた2名の先生方をお招きし、その挑戦から得た手ごたえと成果、今後の課題についてお話いただきました。
あらゆる垣根を越えて、知見や悩みの共有を
学びに大きな変革が起ころうとしている現代。プログラミング教育の必履修化もその一つです。アシアルは「誰でも日常にイノベーションを起こせる未来」を創ることをビジョンに掲げ、その手段として「プログラミングをもっと身近に」することをミッションとしています。プログラミングの必履修化は、そんな明日がすでに手が届くところまで来たことを意味しているのではないでしょうか。
しかし、それは現場で最前線に立つ先生方と共に創り上げていくものだと考えます。恒例となりつつある当研究会は、まさにそんな先生方へ情報提供していくためのもの。アシアル情報教育研究所所長・岡本雄樹は、開会のあいさつで「一緒に」という言葉を再度強調しつつ「自治体、地域、公立私立を問わずあらゆる学校……その垣根を越えて、知見も悩みも気軽に共有できる場にしたい」とメッセージを投げかけます。
この日ご登壇いただいた2名の先生方は、弊社・アシアルの「Monaca Educatuion」など、さまざまなツールを駆使した最新事例をご紹介くださいました。
同じ学習で、対面とオンラインに効果の差異はあるか
同じ内容のプログラミング学習を履修しても、通常の対面授業とオンライン授業では成果が異なるのでしょうか。これを、自らの講義をサンプルとして実際に比較する非常に興味深い検証を行ったのが、北陸大学経済経営学部の鈴木大助准教授です。
鈴木准教授は、新入生を対象にプログラミングの入門科目を担当。受講者は70~80名ほどです。昨年度までは教室での対面式講義でしたが、今年はコロナ禍の影響で、全15回の講義のうち13回を急きょオンラインで実施することになりました。
基本的なルーティンは、授業の3日前に資料を配布し、それに基づいた講義動画を制作・配信。反転授業のような形で学生は自宅で事前視聴しておき、授業時は演習を実施します。そして課題を提出してもらいフィードバックなどを行ったのち、次の講義資料配布……というサイクルです。質疑応答はTeamsで対応し、SA(スチューデントアシスタント。講義や学修のサポートをする先輩学生)も設置しました。
プログラミングに使用するのは、弊社の「Monaca」「専用の機材やデバイス、アプリのインストールを必要とせず、ウェブブラウザさえあれば開発が可能です。開発したアプリは自分のスマホでただちに動作確認できるので、オンライン指導において非常に便利」と鈴木准教授は言います。
未経験の新入生を対象にオンラインでプログラミング教育は可能だろうか
それでも「正直なところ、少し不安でした」と、当時の心情も明かします。「パソコン(キーボード)も日頃ほとんど使っていない学生たちです。オンラインでプログラミング教育なんて、本当にできるのだろうかと」。確かに、知識伝達だけならまだしも、プログラミングは実技演習やそのフォローが欠かせません。それも相手は、未経験の新入生たち。不安を覚えるのも無理のない話でした。
ところが「蓋を開けてみて、1回、2回、3回と講義を重ねるうちに『これはいけるぞ!』と感じました。受講生の反応がずいぶん良かったのです。そこでアンケートを取りました。『オンラインと、教室での対面式、ひとりひとりどちらを選んでも良いとなった場合、どちらがいいですか』と。結果、対面がいいと答えた学生は25%だったのに対し、オンラインを希望した学生は45.6%と大きく上回ったのです! ポイントは、ちょうどコロナが少し落ち着く兆しを見せ始め、対面とオンライン、どちらも選べるという条件下でこの結果が出たことだと思います」。
理由は「講義動画を見直せる」とか「 自分のペースで取り込める」「スライドが見やすい」、ほかユニークなところとして「周囲の目が気にならないので集中できる」という声も聞かれました。
「オンライン授業は、対面授業に比肩するか」を検証
とは言え、単に楽だからオンラインがいいというのでは困ります。そこで、鈴木准教授は一つの仮説を立てました。「学生が先のアンケートで挙げてくれたオンライン授業の利点は、実際に学修の促進及び学修成果の向上に寄与するのではないか。そこで改めてアンケートを実施しました。このアンケートは昨年度も実施したものですが、私の講義をサンプルに、昨年(対面式)と今年(オンライン)の差異を比較してみました。同様に、小テストの結果も比較しています。つまり『オンライン授業の学修効果は対面授業に比肩するか』を調査したものです」。
実証の条件は以下の通りです。まず講義自体は、昨年と同じ内容を同じスケジュールで実施。開発環境に用いたのも昨年までと同様、弊社の「Monaca」です。学内プラットフォームで事前資料配布や課題提出を課したこと、SAがつくことも変わりません。違いは、今年は講義や質疑応答をオンラインに移行したこと、講義の動画配信をしたこと、Teamsを使用したことです。特にTeamsでは、学生を8名前後のグループに分け、疑問点はできるだけ自分たちで解決できる環境を作ったことが、のちのち奏功します。
このような前提で、アンケートでは高校までのプログラミング経験の有無、 パソコン の使用頻度や、学習内容に感じる難易度・面白さを5段階で回答してもらいます。その他、興味を持った点や疑問点を自由意見で記述してもらいました。
その結果、プログラミング経験は昨年も今年も大差はなく、9割以上が未経験。パソコンも、日常的に利用している学生はほとんどいません。前提条件はほぼ同じと言えます。
では、学習内容に対する所感はどうでしょうか。87.5%が「難しい」と感じています。 しかし、講義がつまらないと感じているかといえばそうではなく、64.1%が「面白い」と肯定的な回答を示しているのが印象的です。プログラミング経験はもちろん、パソコン自体も普段ほとんど使ってこなかった学生が、しかもオンラインで授業を受けるという状況に対し、「難しいけど面白い」と答えたのは良い傾向ではないかと准教授は言います。昨年との比較においては、「面白い」と感じる学生が若干増えました。「顕著な差ではないかもしれませんが、当初の調査目的にあった『オンラインは対面式に比肩するか』という観点で言えば、十分に比肩すると言えるでしょう」と手応えを語ります。
小テストの得点分布に顕著な二峰性が表れる
続いて、肝心の習熟度はどうでしょうか。鈴木准教授は小テストでこれを検証しましたが、ここに面白い傾向が表れました。
テストは10点満点で、昨年の最多分布は 2点でした。今年も低い点数のところにピークがあったことは同様ですが、 高い得点(6点)にもピークができる二峰性の分布を示したのです。「重要なのは抜き打ちで、かつ成績評価の対象外であることを告知して行っていること。 事前にテスト勉強をしていない状況下で6点にピークが集まるのは、普段の講義で理解が定着した証左であろうと思われます」。
しかし、なぜこのような成果が出たのでしょうか。鈴木准教授はこのように分析します。「アンケートの回答にもあったように、講義動画を何度も見直すなど、オンラインにより時間をかけて自分で試行錯誤する過程が、基礎力を身につけさせたのではないでしょうか」。
また、期末に行う授業評価アンケートでは、共起ネットワークを用いて分析。共起ネットワーク分析とは、その記述の中で頻出単語を抽出し、一緒に使われることが多い単語を結びつけて関連性を含めて可視化するもの。そこから見えたのは「質問しやすい」「理解できるまで授業動画を見直せる」、あるいは「 アプリを完成させることによる達成感」、そしてそれらを通じて「プログラミング知識が身についた」というものでした。
オンライン授業は学修効果を高める可能性を秘めている
今後に向けた課題は「主に二つある」と鈴木准教授。「まず、受講生のさらなる交流を促進するオンライングループの編成です。今回は、問題の共有や教え合いができるグループもあれば、チャット自体が活発ではないグループもありました。今後は、グループで振り返るための授業回を設ける必要性を感じています。もう一つは、オンラインを用いた反転授業の促進と徹底です」。
もちろん、今回の挑戦と検証は、課題だけでなく可能性に満ちあふれています。「期末アンケートからは、『コミュニケーション力が身についた』『協働力が身についた』といった回答が寄せられたことが意外というか、嬉しかったですね。やはり、Teamsを用いた情報共有の学びが良かったのでしょう」と鈴木准教授。「結論として、『オンライン授業は学修効果を高める可能性を秘めている』と言えるのではないでしょうか」と手応えを示します。
講義の満足度について、94%が「そう思う」「 強くそう思う」という結果を示したのは、きっと何よりの証ではないでしょうか。
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