プログラミング教育実践事例研究会 2021 春~EdTech導入補助金によるMonaca Educationの活用事例~ セミナーレポートVol.2
「プログラミング教育に力を入れたい、しかし予算が……」という切実な問題。そうした学校にとって大きなチャンスとなったのが、経産省の「EdTech導入補助金」制度です。同制度は、学校ではなく事業者主体の申請になっていることが特徴。実績や経営基盤などの厳しい条件を満たした法人が対象事業者としてリストアップしており、学校側はその中から導入したいソフトウェアやサービスを探して申請を進める仕組みです。弊社・アシアルと「Monaca Education」もその対象となっています。今回は同制度を活用して「Monaca Education」を導入した学校を代表し、4校の先生方から導入意図や実践内容の発表を行っていただきました。
実学を学んでいるのに、それを使う場がない
「Monaca とりあえずやってみて」のテーマで講演したのは、東京都立荒川商業高等学校の野村頼和教諭。プログラミング学習を取り入れたのは「私ができるようになりたかったから」と笑います。商業高校ゆえに実学性が高い学習内容が特長の同校ですが、その一環としても「プログラミングを『きちんと』やりたい」という思いを抱えていたそうです。
「Excel VBAを教える程度のことはしていましたが、塩野先生のお話にもあったように、本校もほとんどの生徒がキーボード端末を持っていません。実学的なことを学んでいるのにそれを使う場がないのはどうなのかと。生徒にもっと寄り添った学びをやりたかったんです」。そんな問題意識を抱く中で知ったのが、MonacaとEdTech導入補助金の存在でした。
限られた時間の中で、自分が「教えたい」と思うことを
プログラミング授業は、計8時間。選択科目の一つである「アート」の中に組み込まれました。「アート」はIllustratorやPhotoshopなどのデザインソフトを学んで、コンテスト参加や商店街のポスター制作などに取り組む内容です。「そこへ急に私が『プログラミングをやるぞ!』なんて言うものだから生徒たちも驚いたと思いますが、今後のデジタル社会などの話をし『自分のスマホで動くものを作ろうよ』と説明しました」。この動機付けは非常に効果的だったようで、「自分のスマホに制作物が入る」「(スマホなので)教室の外に制作物を持ち出せる」点は、生徒たちも大いに喜んだそう。
ただ、8時間という時間割り当てで、生徒は基礎的スキルを持っていない状況です。できることは限られています。それでここでも「私が教えたいと思うことをやりました。具体的には変数と配列です」と野村教諭。一方で、それを使った分かりやすい成果物がないと生徒たちも盛り上がりません。MonacaのBMI計算プログラムなどを使って、生徒たちの興味関心が離れないよう工夫しました。
学校の「最後の1年」にプログラミングを
講演テーマである「とりあえず」でもやってみて良かったと思うのも「そうした生徒への興味付けだった」と野村教諭。「例えばBMI計算は、当時私がダイエットをしていたので、『こうやって身長・体重を入力すると、“デブ”って出るんだよね』なんて説明したり、『音出しアプリ』を作って授業中に効果音として使ったり。生徒の成長が感じられたときに、RPGのレベルアップ音を流すんです。こういうのは大ウケしましたし、生徒たちも『あっ、プログラミングってこんな感じなんだね』と理解できるようです」。
逆に辛かったのは、やはりプログラミングが「動きません!」という状態。「デバッグで原因が特定できないと生徒もいらいらしますし、“もやもや”が次第に“ざわざわ”に変わる感覚って言えば分かりますかね? 授業の雰囲気も悪くなります。そのためタイピングについては、テキストデータをあらかじめ用意してコピペするように指示しました」。生徒たちの「自分で入力したものを動かしたい」という気持ちも感じていましたが、限られた時間内ゆえの思い切った割り切りだったそうです。
総じて「やって良かった!」という確かな手応えはあるものの、次へ向けての課題も見つかりました。「『日常のちょっとした困りごとを解決したい、でもストアで買うほどでもない、と思うことをアプリにしてみよう』と提案したんですが、こうした課題発見的な行動は、もう少し補助線を引いてあげないと難しかったのかもしれません」と反省を述べます。
実は、2021年度末をもって閉校が決まっている同校。「学校最後の年、どういう形であれ1年間がんばってプログラミング学習をやってみたいです」と決意を語る野村教諭。生徒たちの最後の思い出、最後の学びにプログラミングを届けるべく、奮闘を誓っていました。
生徒のアイデアをプログラミングで形にしたい
最後の登壇者として、「生徒から見たプログラミング授業」というテーマで、授業アンケート結果をベースに発表を行ったのは、お茶の水女子大学附属高等学校の山口健二教諭。まず、Monaca導入のきっかけをこう語ります。「何人かの生徒が外部のITアプリアイデアコンテストに参加しているんですが、そこではあくまでアイデア止まりで。そのアイデアをどう具体的な実践に落とし込むかに悩んでいたときにMonacaを知り、紹介したんです」。
そこで作ったのが「じぞうあつめ」というアプリ。地図と連動してお地蔵さんがあるスポットをコレクションし、地方の活性化や地域貢献を実現していくものでした。それを皮切りにEdTech導入補助金を申請し、授業でも実践していくことになります。
基本的なICTスキルに課題
プログラミング授業を取り入れたのは「社会と情報」の中で8時間。同校では2コマ連続で開講されており、2コマ×4回(4週間)にわたって行います。第1回でアカウント作成とHTML入門、第2回でCSSとJavaScript、第3回で条件分岐や関数、イベント、DOM、第4回でフォーム、演算子、配列など。基本的には弊社のテキスト「Monacaで学ぶはじめてのプログラミング」に準拠する形です。
ただ他校の事例と同様、生徒の基本的なICTスキルは高くなかったようで「メールアドレスの入力を間違えてアカウント登録できないとか、パスワードを忘れるとか、Monaca EducationではなくMonacaからログインしようとするとか(※両者は異なるサービス)」と笑います。
また「私もなかなか気付けなかった」と前置きして述べたのが「=(イコール)」の扱い。半環境依存文字のイコールを入力しており、簡単な関数なのに結果が表示されず、授業時間内に原因を特定できないといったトラブルもありました。
プログラミングは「難しい」と感じた生徒が目立つ
そんな中でもどうにか授業を回し、年度末にアンケートを実施。評価方式は5段階+自由回答です。まず気になるのは、プログラミングを生徒がどう感じていたかですが、授業のスピードについて2割強の生徒が「早い」と感じたようです。テキストは概ね高評価でしたが「分かりやすさ」という面では若干の課題も。山口教諭は「やはりプログラミング初体験の生徒が多いため、難しく感じたのでしょう」と分析しています。共起ネットワークやクラスター分析を用いた頻出単語の解析でも、「難しい」というワードが目立ちました。
具体的な回答例では、ポジティブなもので「例題や実践が組み込まれていて分かりやすかった」「自分でコードを打ち込んで、どのように動くか確認できるのが良かった」、ネガティブなもので「1文字でも間違えると作動しないので大変」「パソコン初心者には少々厳しい」「もう少しデバッグがやりやすいといいな」といった意見が見られたそうです。
内容を厳選して、プログラミングの楽しさを伝える授業を
これらをふまえ、山口教諭はこう感じていると言います。「他の先生もおっしゃられたように、『写経』のような授業になりがちだったのが1番の反省点です。結果として、プログラミングの面白さを伝えきれなかったのではないかと。あとは「社会と情報」の中で8時間を投じる結果になったことでしょうか。本来は4時間くらいを想定していたんですが、思いのほか時間がかかりました」。
情報の授業、あるいはプログラミング学習について「時間が足りない」という声は、確かに多くの現場から聞かれます。このあたりは抜本的な改革が必要でしょう。今後に向けては「まず、プログラミングに興味を持ってもらえる授業を作ること。そのためにはすべてを授業内でやろうとせず、教える内容を厳選したほうが良いかもしれません」と私見を述べました。
最後に素敵なプレゼントも。山口教諭がMonacaで作成した暗号解読体験アプリがサイトで公開中だそうです。「ぜひご活用ください」というエールと共に、講演を締めくくりました。
プログラミング教育実践事例研究会 2021 春 ~EdTech導入補助金によるMonaca Educationの活用事例~ セミナーレポートVol.1
プログラミング教育実践事例研究会 2021 春~EdTech導入補助金によるMonaca Educationの活用事例~ セミナーレポートVol.3