プログラミング教育実践事例研究会 2021 春 ~EdTech導入補助金によるMonaca Educationの活用事例~ セミナーレポートVol.1

 

「プログラミング教育に力を入れたい、しかし予算が……」という切実な問題。そうした学校にとって大きなチャンスとなったのが、経産省の「EdTech導入補助金」制度です。同制度は、学校ではなく事業者主体の申請になっていることが特徴。実績や経営基盤などの厳しい条件を満たした法人が対象事業者としてリストアップしており、学校側はその中から導入したいソフトウェアやサービスを探して申請を進める仕組みです。弊社・アシアルと「Monaca Education」もその対象となっています。今回は同制度を活用して「Monaca Education」を導入した学校を代表し、4校の先生方から導入意図や実践内容の発表を行っていただきました。

デザイン思考でプログラミングを学ばせたい

先頭バッターは、ぐんま国際アカデミー中高等部(群馬県)で技術・情報科を担当する吉田慎吾教諭です。テーマは「プログラミング教育のトライ&エラー」。いったいどんなトライ&エラーがあったのでしょうか。

まず、Monacaを使ってトライしたかったことを語った吉田教諭。「本校の技術・情報科の授業では『デザイン思考』の学習を取り入れています。身の周りや社会の問題を題材に、その発見→解決策の策定→実行→評価というサイクルで学習を回す、PBL的手法です。しかし高校の情報科は、ただ正解を覚え、定期試験で成績評価するだけの学びにとどまっており、何とかそれを変えたかったのです」。

確かに、プログラミングという一見“とっつきにくい”。学びにおいて、単なる知識の伝達や目的不明な実習を繰り返すだけでは、苦手意識を作ってしまいかねません。問題解決の手段としてプログラミングを学ぶことができれば、印象も大きく変わってくるはずです。

ぐんま国際アカデミー 吉田慎吾教諭

プログラミングのハードルを下げ、まずは興味喚起から

そのため「最初に工夫したのが、Monacaにたどり着くハードルを下げることでした」と吉田教諭。Googleサイトを使って、ログイン画面はもちろん、あんこエデュケーションなどMonacaの関連コンテンツをひとまとめにしたポータル(入口)を作成したのです。生徒はGoogle Classroomやブックマークからアクセスするだけでよく、授業は必ずこのサイトを開いた状態で臨む習慣がついたそう。

Googleサイトを活用したポータルでMonaca関連のコンテンツに簡単アクセス

「まずハードルを下げる」考えは、プログラミングの入門編においても同様です。そこで吉田教諭は、Monaca搭載のサンプルをアレンジした自作アプリを使用することに。例えば宝の入った箱を選ぶ宝あてゲームでは、生徒には当たりが出ないように仕組んだり、パズルゲームを作るぷよぷよプログラミングでは、通常は4個揃えば消せる「ぷよ」(パズルのパーツ)を、10個揃えないと消せない超ハードモードにしたり。「なぜそうなるのか」という興味から、生徒たちを導いていきました。

設定を改編したゲームアプリで生徒の関心を刺激

失敗を重ねながらも、自分自身がデザイン思考で授業を作っていく

主題であった「デザイン思考のプログラミング」に関しては、デザイン思考で「ものづくり」「コトづくり」をしている企業や団体と連携。「教員以外のさまざまな人たちから得る刺激で、『どんなアプリを作ろうか思いつかない』という思考停止を防ぎたかったんです」と狙いを明かします。

学外とオンラインで連携し、デザイン思考を学ぶ

また、問題を抽象化してメタ理解する「定義付け」は、デザイン思考の重要ステップの一つですが、吉田教諭はここにブロック崩しゲームを活用。実際にアプリを使った人の感想や意見を共感マップで分析し、そもそもの「問題の本質」を定義する演習を実施しました。これらをふまえて、オリジナルアプリの製作に着手していったのです。

実製作においては、コロナ過によるオンライン授業への移行などの課題もありましたが、Zoomで画面共有を駆使しながらみんなでデバッグをするなど、臨機応変に対応。「初めてMonacaを使う中で、いろんな使い方にトライし、多くの失敗も重ねながら修正を繰り返してきました」と吉田教諭。まさに教諭自身も、デザイン思考で課題解決に臨んでいたのかもしれません。

コロナ休校中もZoomで画面共有しながらデバッグ

確かな手応えと共に、新しい挑戦へ

その甲斐あってか、当初の狙いであった「ただ与えられた課題を解くだけ」という学びからの脱却には、確かな成果が得られたそう。「主体的に問題を発見して定義し、デザインし、ソリューションを創造し、リフレクションする……その一連の流れを、プログラミングを介して実践することができました」と手応えを感じているようです。

「プログラミングコンテストへの参加や、Web APIの積極活用にも挑戦したいです。情報デザインも重視します。コラッツの問題やナップサック問題、モンテカルロ法など、さまざまなアルゴリズムも取り入れていきたいですね」と、今後の展望も力強く語ってくれました。

プログラミング経験のない教員が授業をしたら、こうなった

続いては、茨城県立下妻第二高等学校で情報科・家庭科を受け持つ塩野雅代教諭。開口一番「プログラミング経験のない教員が授業をしたらどうなるか。それが今日のテーマです」と言うように、失敗談も隠すことなく共有してくれました。発表テーマは「やってみました プログラミングの授業」です。

さて、素人同然のスタートですから、まず先生自身が必死に学ばなければなりません。塩野教諭は、約10カ月で20回以上もの研修会に参加したと言います。それでもやってみようと思えたのは、過去の当事例発表会で「生徒同士の教え合いや、授業進度がバラバラになることがあってもOK」という話を聞いたから。「私にもできるかも、と勇気をもらいました」と述懐します。それが今はこうして事例発表する側に回っている事実は、この日参加した後進の先生方の背中をさらに押してくれたことでしょう。

5分で200文字が入力できない生徒たち

「何も分からない」のは生徒も同様です。授業開始時に実施したアンケートによると、ほとんどの生徒が「自分のICTスキルに不安がある」と答えたそう。キーボード付きの端末を所有している生徒も2割程度にとどまりました。

自らのICTスキルについて、7割以上の生徒が「不安」と答えた

生徒のキーボードの所有率は低く、2割程度

それを裏付けるように、授業でもさっそく壁にぶち当たります。「とにかく、生徒のタイピングが遅くて……。5分で200文字を入力できない、「“”(ダブルコーテーション)」を表示するのに、「‘’(シングルコーテーション)」を2回入力しようとする、アルファベットのbとd、大文字のIと小文字のlを間違える……getElementById(指定したIDに合う要素を取得するメソッド)はS難度としか言いようがない状況でした」。

塩野教諭自ら「まるで写経の授業」と揶揄したように、デバッグだけで授業が終わることもしばしば。生徒には「なんでこんなことをやらされるの」という空気感が生まれ始め、先生の指導モチベーションも下がるという悪循環だったと明かします。

塩野教諭が実技指導で苦労したこと

できない生徒を置いて行かない

次にぶつかったのは「進度の壁」。やはり習得が早い生徒とそうでない生徒の差は大きいものでした。「でも、私自身が『できない』側の人間でしたから。生徒の立場で考えると、置いて行かれるのは苦しいだろうなと」。そこで、先に進んでいる生徒にはCSSを充実させるなどして待ってもらい、決して置いて行かない対応を取りました。

全体をふり返ってみると、生徒の質問に答えてあげられなかったり、デバッグの対応に手が回らなかったり、授業アンケートでもその点はやや不満の声が聞かれたそう。教諭自身が「最も反省している」という、「もっと自分で考える時間が欲しかった」「復習や応用問題をやる時間が欲しかった」という時間不足への意見もありました。

アンケートからは実習時間や応用の時間がもっと欲しいという声が聞かれた

不完全でも、生徒にとっては大きな刺激に

ただそんな環境下でも、慣れてくると少しずつ工夫ができるようになったと言います。生徒の入力も次第に早くなり、友達に教えられる“生徒デバッガー”も現れ始めたそう。「私もだんだん面白くなってきて、消費税額計算アプリの画面だけ見せて『どこを治したらいいと思う?』という応用問題を出してみたり、アイコンのフルーツの顔を変えてみたり。なんとか楽しくやっていくことができました」。

工夫を凝らして、しだいに少しずつ生徒も楽しめるようになった

一方で、あれだけ苦労した生徒の基礎スキルの問題ですが、授業アンケートからはこんな意外な(?)結果も。「情報科の授業で最も印象に残っている内容を尋ねる質問では、1位が47%で『Monacaを使ったプログラミング』でした。それは分かるとして、その次が20%で『タイピング』だったんです。また『最初はできなかったが、今はできるようになったこと』を尋ねた質問でも『プログラミング』という答えが57%。私のような(指導知識が不完全な)人間が教えても、刺激的な内容であったことは確かなようです」と手応えを語ります。

今後に向けて必要なものは「教員側の余裕」だと言う塩野教諭。自戒も込めて、教員が知識や技術の引き出しを増やすことの重要性を助言しました。「来年度の『情報Ⅰ』実装に向けても、不安がいっぱいです。今後もみなさんと情報交換していきたいですね」。

修了後のアンケートでは好意的な回答が多数見られた

修了後のアンケートでは好意的な回答が多数見られた

プログラミング教育実践事例研究会 2021 春~EdTech導入補助金によるMonaca Educationの活用事例~ セミナーレポートVol.2

プログラミング教育実践事例研究会 2021 春~EdTech導入補助金によるMonaca Educationの活用事例~ セミナーレポートVol.3