プログラミング教育実践事例研究会 2021 春~EdTech導入補助金によるMonaca Educationの活用事例~ セミナーレポートVol.3
最後は、アシアル情報教育研究所所長・岡本雄樹をファシリテーターに、発表者である4名の先生方を交えた座談会を開催。参加者の皆さんから事前にいただいた質問の中から要望多かったものを中心に、リアルタイムの意見も吸い上げながらのディスカッションです。赤裸々ホンネも冗談も飛び交う、楽しくも濃いセッションとなりました。
<登壇者>
- ぐんま国際アカデミー中高等部 情報科・技術科 教諭 吉田慎吾 氏
- 茨城県立下妻第二高等学校 情報科・家庭科教諭 塩野 雅代 氏
- 東京都立荒川商業高等学校 商業科教諭 野村 頼和 氏
- お茶の水女子大学附属高等学校 情報科教諭 山口 健二 氏
<ファシリテーター>
- アシアル情報教育研究所 所長 岡本 雄樹
敷居を下げ、身近な人や事例から学んでいく工夫
岡本:では最初にこの質問から。「生徒の興味関心を引き出すための動機付けはどのように行えば良いか?」。広く、教科「情報」の1回目の授業というケースもあれば、その単元の一つとしてプログラミングに入る際の動機づけという場合もあるでしょう。「我こそは!」という先生はいらっしゃいますか? おっ、では塩野先生!
塩野:最初の情報の授業で「教科書早読み」という取り組みをしています。まずはパラパラ読ませて「こういうことを学んでいくんだけど、1年後にこの授業が終わったときどうなっていたい?」っていうアンケートを取るんですね。ここで、こちらが教えたいこととすり合わせながら、彼らの食いつきが良さそうな内容から始める感じです。
山口:プログラミングに限らず、私は身近な実例を見せることが多いですね。例えば、実際に私のスマホに届いた詐欺メールを見せるとか。他にも画像処理の学習で、「JPEG は保存を繰り返すと画質が落ちると言われるが本当か」を実際にやってみるとか。それでPNGとのファイル形式の違いを教えるんです。
吉田:私は中学の技術科も受け持っていますが、そこでは最初に「木材で作ってみたいもの」を聞き、それに沿って製作(実習)に取り組みます。プログラミングでも同様に「プログラミングでどんなことをやりたい?」というアプローチから入りますね。
野村:いかにも「授業」という身構えた感じにならないために、教員以外からも学べるようにしました。例えば地域在住のプログラマーさんですとか。「学校で子どもたちに教えてやってほしい」と伝えると、手弁当で引き受けてくださる方も少なくないですよ。
成果を数値化しにくい実習・課題をどのように評価するか
岡本:ありがとうございます。では次の質問です。「実習・課題における評価はどのように行うと良いか?」
塩野:評価には実技系と知識系があると思いますが、確かに実技系は難しいですね。例えばプレゼンなどは、他の担当教員と評価条件をすり合わせるほか、生徒同士の投票も加味してできるだけ客観的に判断するよう工夫しています。知識系は、年2回の定期テストとは別に、Googleフォームを使った小テストもこまめに実施しました。とにかく回数を積み重ねて、仮に生徒から「なぜこの成績評価なのか」と尋ねられても、きちんと答えられるエビデンスを揃えておくためです。
吉田:本校ではルーブリック評価を採用しています。ルーブリック表は初回授業のオリエンテーションで生徒に配布し、事前に明確な評価基準を示すようにしています。
山口:今後の現場では「観点別学習評価」が進んでいくと思いますが、それをふまえていま考えているのは、課題にせよ試験にせよ、それらが観点別評価のどの項目に該当するのかというリストを作っておくことです。ただ「この素材(問題)でこの能力を評価する」と、明確に線引きするのは難しいでしょう。ですから「この問題では知識・技能は3、思考・判断・表現力は1、主体性は2」といったイメージで、一つの素材の中で強弱をつけながら総合評価することになると思います。
野村:生徒同士の相互評価の要素を入れています。例えば自分の名刺を作って、生徒間投票の結果が成績にも反映される形式です。
共通テストへの「情報」導入をどう考える?
岡本:大学入学共通テストへの「情報」の導入がニュースになっています。先生方の率直なご感想を教えてください。黙秘もアリですよ(笑)。
山口:サンプル問題を解いてみましたが、単に情報系のスキルだけでなく、速く正確な計算力や表を読み取る力など、思考力も試されているなと感じます。
塩野:私のような数学的思考が苦手な人間からすると、「お手上げ」というのが正直な感想です。サンプル問題は私も解いてみたんですが、私が情報科の教員免許を取った時には履修していない用語もたくさんありました。これをたった週2時間の授業で受験科目として指導できるほどの力は、残念ながら今の私にはありません。ただ、数学の先生であれば解けるのではないかとも感じます。
吉田:数学などと同様、教科書準拠の問題を徹底的に取り組むというのが対策になるのかなと感じます。
岡本:(プログラミングだけでなくSTEAM教育全体を念頭に)今後は弊社の研修にも、数学やアートも取り入れていく必要があるかもしれませんね。
野村:あっ、私は黙秘で(笑)。
教員自身が学ぶ姿勢を持ち続けること
岡本:続いて「先生自身の学習はどうしているのか?」という質問も来ていますね。
野村:いやもう、アシアルさんの勉強会などには、すぐ「参加します!」って宣言することですよ。まあ(多忙なスケジュールの影響で)たいてい後悔するんですが、予定は後から調整して、とにかく動くことです 。
吉田:私も今回のような研修会に参加して勉強しています。
山口:情報教科に関する新しい技術については、Webで仕入れて試してみるという感じです。他の教科の情報も仕入れて、連携できるポイントがないかも考えています。
塩野:野村先生と一緒で、機会があればとにかく(勉強に)行く。これにつきると思います。今ならオンラインもあるわけですし、普通なら出会えなかった人に出会えるのは大きいですから。
どっちがいい? タイピングVSコピー&ペースト
岡本:では、この場で出た質問も取り上げていきましょう。「タイピングが苦手な生徒が多い。コピペではダメか?」というお悩みが来ていますね。
野村:うーん、どうなんですかね? 僕は「タイピングができないならコピペでいいや」って割り切ったんですけど、他の先生方はいかがでしょう?
塩野:家にはキーボード環境がない生徒が多いですから、たった週2時間の学校の授業の中で練習するしかないんですよね。ただやはり、遅いタイピングを待つのは本当に辛くて、結局テキストデータを配信して対応せざるを得ない場合もあります。ですので、お悩みになる気持ちがすごく分かりますね。ぜひ他の先生方のご意見も伺いたいです。
山口:やはり塩野先生がおっしゃるように、タイピングができないとプログラミングはかなり厳しいと思います。本校では「毎日パソコン入力コンクール」などの大会に参加しつつ取り組んでいますが、それでもある程度の差が出るのが現状ですね。ただ、タイピングかコピペで済ませるかという問題については、個人的には「タイピングをやらせたい」という考えです。読み書きと同じで、いくら頭の中で理解していても、タイピングができないとせっかくの思考もアウトプットできなくなってしまいます。
二極化大歓迎! プログラミングが生徒に輝ける場を創る
岡本:「生徒によって理解度や進度が二極化し、差が激しい。できる生徒が教えるケースもあろうが、教室内を生徒が勝手に動き回るのは良いのだろうか」。
塩野:これはプログラミングに限らず実習授業であれば必ず起こることなので、私自身はあまり気にしていないですね。教室の中を歩き回る生徒がいるのも、そうやってできる子ができない子を教えるのは、とてもいいことだと思います。例えば本校ですと、部活動でも勉強でもヒーローになれなかったけど、プログラミングだとヒーローになれる子がいたんですよ。授業中の私の間違いもズバリ指摘してくれて。それが実習授業のいいところですし、二極化はむしろメリットとして捉えています。
野村:私もまったく同意見です。生徒にはいつも「学びの頂点にあるのは『教えること』だよ」と伝えています。「人に教えることが自分にとっても1番の学びになるから、ぜひ隣の友達にも教えてあげてね」と。
山口:本校の情報科の演習では、大学院生とチームティーチングにより質問対応などを手分けしています。私は、授業や実習についていけない生徒をつくらないことを大事にしたいのですが、これは、序盤でつまずいてしまうと、 以降でやるべきことがまったくできなくなるのがプログラミングだからです。ですから基本的には、遅れがちな子たちに足並みを合わせます。理解の早い生徒には「教科書を読んで先に進んでおいて」と指示しますが、もしそれで退屈する生徒が出てしまったとしても、(躓いている)生徒を置いていくよりははるかにいいと考えています。
吉田:理解が早い子って、いきなり大きなことを色々やろうとして一つひとつの基礎がおろそかになり、最後に失敗するケースもありますからね。意外と、地道にこつこつ頑張ってきた子のほうが、着実にアプリを作り上げる確率が高いと感じます。後は塩野先生がおっしゃるように、やはり「プログラミングだと輝ける生徒」が生まれると、やはりこちらも嬉しくなりますね。
岡本:プログラミングが生徒たちに新たな居場所を作っているのであれば、素晴らしいですよね。話は尽きませんが、そろそろお時間のようです。先生方、ありがとうございました。
プログラミング教育実践事例研究会 2021 春 ~EdTech導入補助金によるMonaca Educationの活用事例~ セミナーレポートVol.1
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