オンラインで変わるか、これからのプログラミング教育 ~「プログラミング教育実践事例研究会2020冬」レポートVol.2~
プログラミング教育のオンライン化、通信制教員はこう見た!
続いて登壇したのは、中島俊治氏。サイバー大学IT総合学部の准教授であると同時に、その他の通信制・通学制の大学でも非常勤講師として教鞭を取ります。いわば遠隔指導のスペシャリストです。
今回はそんなお立場を活かし、ご自身が教壇に立つ各地の大学から、多くの事例を紹介。タイトルは「通信制教員から見た、通信制プログラミング科目の遠隔教育のヒント」。失敗も成功もふまえた、現場目線のリアルな提言の連続となりました。
CASE 1 新型コロナに「負けない」通信制大学
中島准教授が籍を置くA大学は、通信制のインターネット大学。もともとITを専門的に学ぶ大学であることから、先ほど鈴木准教授の事例のような「ほとんどパソコンを触ったことがない」という学生に比べると、それなりの基礎リテラシーは有している人たちが対象と言えるかもしれません。
中島准教授は同大を「新型コロナに負けなかった」例として真っ先に挙げました。勝因は「土台が整っていた」ことだと言えそうです。「講義はオンデマンド映像が中心ですが、それを包括的に支える土台(プラットフォーム)として、授業ポータルサイトの『クラウドキャンパス』を有していたことが大きいです。クラウドキャンパスの特徴は、異なる複数のデバイスからアクセスしても学習履歴の連続性を保てることでした」。時と場所の制約を受けにくい学習環境が整備されており、通信制ならではの体制とも言えるでしょう。これらを用いて、コロナ下でもスケジュールを乱すことなく、予定通りにカリキュラムを消化できているそう。
そう考えると、その特性から通信制の学校は、コロナに対する“免疫”を初めから持っていたと言えるのかもしれません。しかし「問題は次です」と、釘を刺すように語気を強める中島准教授。「新型コロナに負けた通信制大学」という、ややセンセーショナルな見出しで二つ目の事例を解説しました。
CASE 2 新型コロナに「負けた」通信制大学
あくまで個人の主観であると前置きして示したのが、中島准教授も教鞭を取るB大学です。同大は通信制大学の老舗と言える存在で、講義は同じくオンデマンドが基本。TVのBS放送や、インターネット、ラジオのほか、全国各地のスクーリング拠点でも受講が可能です。「しかし、A大学に比べると、学内のインフラや受講生のネット環境もまちまち。高齢者の受講生が多いことも影響しているでしょう。その状況でのコロナです。私が受け持つ講義も含め、対面授業は全国で次々に閉鎖となりました」。
代替案としてZoomを用いた講義を急きょ設定したものの、それでもコマ数が足りない状況に。「やはり課題は、組織内のオンライン対応環境が不足していたことです。通信制といえども万全ではないと、しみじみ感じました」と唇を噛みます。やはり、基本のインフラ環境が整っていることは大前提となってくるようです。
CASE 3 「割と成功した」通学制大学
A大学のように、大きな混乱なく講義を回せた学校もあれば、B大学のようにインフラ不足から大きな停滞を起こした大学もあります。では、その中間はどうでしょうか。中島准教授は「割と成功した」ケースとして、通学制大学の事例を紹介してくれました。C大学(埼玉県)です。
同大は、コロナ禍により対面授業を一斉にオンデマンド授業に切り替えました。この対応は比較的早かったそうです。B大学で問題となったオンライン環境についても独自のポータルサイトを有しており、お知らせやレポートの提出などはここを使えました。しかし、さほど高機能なものではなく、アクセスが集中するとサーバが落ちるような状況だったと言います。問題はやはりここでした。
「ポータルがあるところまでは OK なんですが、私たちが教え学ぶのはプログラミングです。PHPの練習環境が必要でした。それまでの対面授業では、XAMP(ザンプ。ウェブアプリケーションの実行に必要なフリーソフトをパッケージにしたシステム)を学内で学生のパソコンにインストールして使っていましたが、これがオンラインになったことで対応が難しくなったのです。例えばインストールできない、動作がおかしい、ファイルのやりとりができない……トラブルや質問時の対応も、貧弱なポータルでは追いつきませんでした」。そこで用意したのが、講師と学生が「制作物を共有する仕組み」。具体的にはファイルのアップロードツールを自作したことです。
しかし、中島准教授はさらに上を目指していました。「これだけだと面白くないんですよね。みんなが学んでいる様子を“見える化”したかったのです」。そこで、ここに Google Analytics を埋め込むというエッセンスを加えます。この分析機能で、例えば受講生たちがいつ課題ファイルをアップロードしているのかなどが可視化されます。「ほかの学友の進捗や動作を参考できるため『自分もやらなければ!』という気になるようです」と笑います。
北陸大・鈴木准教授の事例では「オンラインだと一人で集中できる」という利点がありましたが、時と場合によっては、その環境が孤独感に繋がることもあります。Teams活用のケースもそうですが、「一緒に学んでいる空気作り」をうまく併用していくことが大切なのかもしれません。
CASE 4 PCのないプログラミング授業
ここまでの事例では、それなりに上手くいった大学は、受講生が自前のパソコンを所持していることが前提となっていました。しかし「PC のないプログラミング授業というケースもあるんですよ」と中島准教授。
その実例がD大学(通学制 ・埼玉県)です。特徴は、学生の多くが若年女性であること。「女性に限りませんが、若年層の多くはもっぱらスマホでインターネットにアクセスします。この大学では、非常に整った環境のパソコンルームを有していましたが、コロナ禍でここが使えません。しかも、自前のパソコンを持っていない学生もいます。さらに通信においては、従量課金制の学生にも配慮しなくてはいけません」。Zoomなど、講義で大容量の通信を行っていては、いわゆる“ギガが足りない”状態になるためです。そこで大学側は 、Google Classroom を用いて小容量の PDF と音声ファイルを講義に使おうとしました。
しかし、これはこれで問題が。画面の大きさに限界があるスマホで、 音声ファイルを再生しつつPDFを閲覧するのはとても面倒だからです。そこで中島准教授は、 PDF をすべて HTML5に打ち直して音声を埋め込み、PDF内のボタンを押せば音声が聞こえるように改良。さらに内容を物語形式で展開しました。例えば「先生、おはようございます。 HTML5ってそもそも何ですか」「皆さんおはようございます。さっそくいい質問ですね。ではこの授業で学ぶ HTML5について説明しましょう」――こうした「会話」が音声付きテキストの上で流れていくのです。演習は別途必要だという課題は残るものの、基礎レクチャーとしては十分。講義アンケートの結果も上々だったと言います。ネットやデバイス環境が整っていない学生の存在に配慮することが、一つの成功のカギだと言えそうです。
CASE 5 文系大学で、遠隔プログラミング
E大学(通信制)のメインは、図書館司書系の社会人大学生。 実は日本で最初のインターネット大学で、学生のパソコン環境、大学側のインフラも整っており、授業はすべて同時双方向型のオンラインと、先端を走っています。
「ただ、文系なんですよね」と准教授。確かに、プログラミングは理系科目のイメージで、文系学生は苦手意識を持つかもしれません。では、実際に文系大学ではどのようなプログラミング教育を行っているのでしょうか。
「私が意識したのは、『体を動かす練習』でした。ティンカリングと言います。道具や機械を「いじくりまわす」「試行錯誤」という意味です。しかし、初心者向けの演習ツールって少ないんですよ」。そこで中島准教授は、またもや自作しました。その名も遠隔プログラミングツール「練習くん」です。
これをオンライン上で展開することで、講師と学生、あるいは学生同士の双方向コミュニケーションが密になり、誤りの指摘もしやすくなりました。文系の学生でも楽しく講義を受けられ、アンケートでも高評価。「プログラミングは、やはり演習が大事です」と繰り返しました。
キーワードは、演習と協働性の再現
中島准教授は、改めて呼びかけます。「新型コロナの影響で、誰もが暗中模索の中、さまざまな苦労が発生しています。その対応を、ぜひ一緒に考えていきませんか」。
オンライン授業の浸透により、知識やスキルの伝達はある程度できるようになりました。しかしお二人の話を総合すると、ことプログラミングにおいては、そこへいかに演習や協働性を加えていけるかがカギになっていると言えそうです。そして、それを実践していくのは私たち自身です。まさしく、演習と協働を繰り返しながら。そんな「明日のプログラミング教育」が見えた、学び多き研修会となりました。
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